100 礼拝堂の奥で
「よろしくね、私はミーシャ。ベルン教会のシスターよ」
「俺、アルト。こいつは召喚獣のムート、よろしくね」
「ソプラです。この子はクーちゃんです。よろしくお願いします」
お互いに自己紹介を済ませて、礼拝堂に通される。
教会の前室はぼろぼろだったけど、礼拝堂はとても綺麗にされていた。
古いけど装飾なんかを見ると、ステンドグラスや壁絵など、ベルンの教会よりも豪華な感じだ。
みんなで巡礼の祈りを捧げて、キーキさんとラーラさんに向き直った。
「ありがとうございます。ターカ様のご加護があらん事を」
「いやー本当待ってたよ! ここは今にも潰れちまいそうだからな!」
キーキさんはおしとやかな感じで物腰が柔らかい、ロングヘアーで右の前髪が長い。
ラーラさんは姉御肌で豪快な感じ、ショートヘアーで左の前髪が長かった。
顔がそっくりだからわかりやすく特徴つけてるのかな? まぁ、双子と言っても、性格は似ていないようだけど……。
「そうね、巡礼に来たのはいいけれど……ここまでぼろぼろだとは思ってもみなかったわ。なんでここまでぼろぼろなの?」
「「それは……」」
2人して何かいいよどむ様に互いをチラチラと見つめ合う。
「まさか、あんた達のその目のせいじゃないわよね……」
「「ぴくっ」」
「ん? 目? ……っあ」
よく見ると2人とも左右反対だけど前髪で片方の目を隠している……。
その髪の間から、薄っすらと青い輝きがある瞳が見えた。
キーキさんは右目、ラーラさんは左目がそれぞれ青目だった。
ちらっとソプラを見ると下唇を噛んで、悲しそうな表情をしていた。
ソプラは最初から気づいていたのか……。
なんだか気まずい空気の中で、喋り出したのはラーラさんだった。
「確かにあたい達の片目は青目ではあるけどよ……信徒の人達はみんな良くしてくれるし、教会がぼろぼろなのは別の理由だよ……キーキ、この人達なら話しても大丈夫だろ?」
「でも……」
キーキさんは言って良いものかとこちらを見てくる。
ふむ……何か事情があるみたいだな……。
俺たちも話してくれるタイミングを待っていると……。
バーン!!
「ただいまー!!」
「あっ! ピアノのお姉ちゃんだ!」
「本当だ! きてくれたんだ!」
「ニワトリさーん!!」
「「「『え?』」」」
『クックゥ?』
勢いよく開かれた扉の方を振り返ると、10人くらいのちびっ子達が続々と教会に入ってきた!
更に俺を見つけるやいなや、周りを囲まれてしまった。
この子達、さっき広場のピアノの演奏で合唱してくれたちびっ子達か!?
「お姉ちゃんまたピアノ弾いてよ!」
「こっち! こっちきて!」
「さっきのジャジャーンのやつ弾いてー!」
突然ちびっ子達から話しかけられて、グイグイと奥に押されていく。
「ちょ!? え? 何? 何?」
『なんだ? この童どもは?』
更にちびっ子達は強引におるの両手を引き、教会の奥に連れて行こうとする。
これ半分拉致だよ!? おい! ミーシャ!! ニヤニヤしてないで助けてよ!?
「え? おいおい? どうなってんだこりゃ?」
「みんな!? その人は大切なお客様なのよ!?」
キーキさんとラーラさんはちびっ子達の行動に困惑するが、ちびっ子達はそんな事を気にすることもなく、俺は礼拝堂の奥の扉に強制連行された。
「ここだよー!」
奥の扉が開いて、俺はなすすべなくその中に引きずられて行った。
そして、目の前に飛び込んできたのは……。
「ピアノだ……」
『む? さっきの音の鳴る箱』
そこにはかなり古いが、黒塗りの丁寧に整備されているピアノがあった。
「アルトちゃーん待っ……て、あれ? ピアノ?」
「あら? ここにもピアノがあるのね」
「お前たちいったいどうしたんだ!? 勝手に連れて行っちゃダメだぞ!?」
「そうよ、いつもいい子にしてるじゃない!?」
後を追ってきた皆んなも合流したようだ。
「あのね! おねーちゃんがピアノ弾くとピカピカなのー!」
「けんばんビロビローってすごいの!」
「たのしーのー!」
「でも叩かれるから、ぼくたちがまもるの!」
「「はい?」」
ちびっ子達の言動にキーキさんとラーラさんは首をひねり、困惑してるようだ。
まぁ、子供達が弾けって言ってるしキーキさんとラーラさんにもわかってもらうには、聞いてもらった方が早いか……。
俺はピアノの前に座り、軽く音を確かめた後、ある曲の前奏弾き始めた……。
「え!? ピアノ……弾いてる!?」
「あら……すごい! 上手!!」
キーキさんもラーラさんも、俺がピアノを弾いている事に驚いているようだ。
そんなにピアノ弾ける事が珍しいのだろうか?
まぁ、いっか。
俺はそのままピアノを弾き続けた。
「あー! ターカ様の曲だー!」
「わたしこれ好きー!」
「みんな歌おう! いくよ……せーの!」
弾いている曲はターカ教に伝わる聖歌の1つ『さくら』
ターカ様が一番好きだった花だそうで春になると前世の日本の桜同様、ピンクの花を満開に咲かせるとても綺麗な木だ。
異世界でも桜の花の価値観は変わらないものなのだな、と懐かしく思ったものだ。
そこからは再び、ちびっ子達の大合唱になってしまった。
キーキさんもラーラさんも、ニコニコして歌うちびっ子達の大合唱を呆然と見つめていた。
でも、とても不思議なピアノだ……まるで鍵盤が指が吸い付くように滑らかに動く、タッチが思うように鍵盤を通して音へと繋がる……。
今まで弾いたピアノの中でも一番弾きやすく、音の響きも素晴らしい。
うーむ、異世界のピアノってすげぇなぁ……。
そんな事を思いながら、一曲弾き終えた。
「お姉ちゃんすごーい!!」
「ターカ様の曲でこんな気持ちになったの初めてー」
「きれいな音ー」
「キーキ姉ちゃんが弾いてもこんなにならないよー!?」
「ドラゴンさん頭の上で寝てるー!」
ちびっ子達は大はしゃぎで、再び俺を取り囲んでくる。
「だぁー!! こら引っ張るな!! 背中に乗ってくるな!! ……誰だ! けつ触ったやつ!?」
ちびっ子にもみくちゃにされる俺。
おーい! そこのシスターズ!? ボーッと見てないで助けてくんないかな!?
「すげぇ……このピアノってこんな……」
「うん……こんな演奏……初めて聴いた……」
「どうやってピアノを覚えたはさて置いて、素晴らしい『さくら』だったわね」
「うん、アルトちゃんすごい」
なんだか4人ともそれぞれの表情を浮かべて見守っていらっしゃいますが、本当助けて!
こいつら手が出せない分、ムートよりたち悪いんだから!! お願いぃぃぃい!!
そんな俺の悲痛な叫びが届かない中……。
ドガーン!!!!
「オルァ!! 青目シスターども!!出て来いやぁ!!」
「「「「「!?」」」」」
突然礼拝堂の方から、扉が破壊されるような音と怒声が響き渡った。
ついに100話到達です!
╰(*´︶`*)╯お読みくださっている皆様、本当にありがとうございます!
まだまだ頑張っていきますので、これからもアルト達をよろしくお願いします!
いつもブクマ、感想、評価、誤字報告などありがとうございます!




