1 プロローグ
閲覧ありがとうございます。つたない文章ですが、生暖かい目で気長に読んで頂けると幸いです。
日の光も届かないような暗雲が立ち込め、落雷が各所に響き渡り、吹き飛ばされそうな暴風が木々を揺らす。
俺の目の前には、町よりも巨大な魔方陣の中心に体長100mを超える今まで見た事もないドラゴンがいた。
全身を黒く艶がある鱗で覆われており、背中からは広げれば300mはあろう器用に折りたたまれた翼、尻尾も太く足元を隠すようにグルリと巻きつけている。
目を合わせると金色の瞳からこの場に居られない程の恐怖を感じ、口元は鋭く並んだ牙、頭には二本の枝分かれした禍々しいツノが生えている。
『我は龍神バハムート、此処に呼び出した召喚者は貴様か?』
魂すらも戦慄するような低く重い声音でその巨大なドラゴンは俺を見下ろし問いかけてきた。
「は、はい……。そ、そそそうです……」
俺は腰を抜かし、尻もちを付きながらバハムートと名乗るドラゴンを見上げ、声を絞り出すように答えた。
なぜ、このような事になったのか。
時は今から10年前に遡る。
* *
俺は心底疲れ果てていた。
名前は、田中浩介
いたって普通の家庭で産まれ、父、母、兄と妹の5人家族。小さな頃から野球をしており体もソコソコ丈夫な方だ。
工業高校・大学を卒業した後、色々なバイトを点々としながらフリーター生活をしていたが、とある定食屋のバイトから店長になった。
働き出して15年、従業員やバイトスタッフにも恵まれ、売り上げもボチボチながらうまくやっているつもりだ。
年齢も42才となり、休日も店が気になりサービス出勤して遊ぶ暇も無く、趣味もない。
体型は小太りで容姿は普通位だと自負しているが……実は彼女もできた試しが無い。
年収も同年代の平均以下で合コンに行ってはみるものの相手にもされず、なかば彼女も結婚もあきらめてしまった。
いつものように夜22時頃、店舗の戸締まりをして帰り道のコンビニに向かう。
晩酌用の発泡酒のパックとつまみ、漫画雑誌を取りレジへ向かう。
「あっ、田中さん。お疲れ様です。今日も晩酌ですか?たまには休肝日取らないとダメですよ」
レジにいたのは最近顔馴染みになった大学生の女の子が笑顔を浮かべながら話しかけてきた。
ネームタグを見ると堀口さんと言うらしい。
黒髪で身長150センチくらい、顔は美人ではないが愛嬌があり、笑うと笑窪がでる可愛げのある女の子だ。
「これだけが唯一の楽しみなんだから勘弁してよ」
微笑を浮かべながら当たり障りの無い会話。
だが、この笑顔を見る為にここに足が向いてしまうのは内緒だ。
「ホドホドにしてくださいね」
「へいへい」
当たり障りの無い会話と商品とお釣りを受け取り、名残惜しくも店を後にする。
レジ袋を右手に持ち、左手にはスマホ、コンビニからアパートまでは徒歩で15分の距離だ。
少し肌寒くなってきた住宅街の夜道を歩きだす。
歩きながら最近よく思う、いつまでこんな生活が続くのだろう……。
今の仕事は嫌いでは無い、むしろやり甲斐もあると思っている。
冴えない自分を慕ってくれている店のスタッフ、通いつめの常連さんとの会話、仕入れ業者にも贔屓にしてもらっている、居心地が良い職場だと思う。
しかし、毎日刺激もなく同じ事の繰り返し……。疲労は無いが、精神的な疲れが蓄積されきているのかもしれない。
気持ちを発散したいが仕事ばかりだった為に趣味も無いし、友人達も既に家庭を持っており遊びにも誘いづらい。
何かやるにも、もう若い頃の活気溢れる希望も体力も無い……。
「はぁ……」
意識はしていない、自然とため息が出た。
考えるのも面倒臭い、気持ちを断ち切る様にスマホのアプリを操作しながら足早にアパートを目指す。
数分歩いた所で急に視界が右から明るくなった、眩しい。
顔のみ右を向き光源を確かめた。
トラックだ、住宅街だが結構スピードが出ており、ブレーキもかけそうな気配は無し。
そんなトラックが目の前にいた。
「あ……」
どうやら俺はスマホに夢中で交差点に進入した事に気づいていなかったらしい。
俺の中の世界がゆっくりと進むような感覚になる、浮遊感もあるようなふわふわとした感覚だ。
だが、思考は意外と頭は回り冷静さを保っていた。
運転手に意識を向けると目を瞑って頭が波打っている、居眠り運転だろうか?
トラックが膝のあたりから身体にめり込んでくる、ゆっくりとスローモーションでも見ているように右手、肩に接触し、腕が変な方向に曲げられていく。
不思議と痛みは無い。
あぁ……ここで死ぬのかな? もっとやりたい事が……いや、ないか。
なぜだろう、未練が無いのか? 未練を思い出せないのか? 考えても無駄だと悟ったのか?
思考は巡るも何も出てこない、俺の人生こんなもんだったのか……。
そんな思考を巡らせていると、ついに顔にトラックがぶつかってくる。
あっ……そうだ、俺まだ童て…………。
そう思いかけた途中、意識がテレビみたいにプツンと途切れ俺はあっさりと人生の幕を下ろしたのだった。
この作品をお読み頂きありがとうございます。
本編もごゆっくりご高覧ください
よろしくお願い致します。