ソラマメ
遮断機のない踏切を知っているだろうか。
ド田舎にあるアレだ。
とあるお婆さんの畑は自宅の向こう側、踏み切りの向こう側に畑を持っていた。
そう。
自分の畑に行く途中、踏み切りの中で腰を痛めてしまってね。
何もかもが間に合わなかったのさ。
その日には息子や孫が遊びに来る約束になっていて。
お婆さんはきっと張り切りすぎたんだね。
季節の空豆を食べさせようって話になっていたらしい。
なんでも息子さんの好物だったとか何とか。
で、だ。
花が手向けられた。
それだけの話。
後日、踏み切りに遮断機がついた。
当然だね。
だってその踏み切り、通学路にもなってたし。
危ないじゃないか。
んで、ある日。
小さな子供さんの手を引いた若いお母さんが踏み切りを渡ってた。
でもお母さんは違和感に気づく。
重いんだ。
子供を見たね。
お母さんは見た。
子供の足に皺枯れた手がしがみ付いているのを。
若いお母さんは手を子供の手が抜けんばかりに一生懸命引っ張ったけど。
ふっと力が抜けたらしい。
会社員の人が飛び込んだんだ。
お母さんと子供さんの手が離れたって。
お母さんは助かった。
子供さんは……あれだね、残念だったよ。
で、踏み切りにまた花が手向けられた。
丁度さ、お婆さんの孫と同じくらいの年齢の子供さんだったらしいよ?
ああ、会社員の人?
丁度おばあさんの息子さんと同じくらいの年頃でね。
会社員の人はある日、違和感を感じたんだ。
遮断機がカンカンと鳴り出した。
でも、足元を見れば若い女の人の腕が足首を掴んでいてね……。
え? この花?
そうさ。空豆の美味しい季節の話だよ。
若いお母さんのその後?
知らないねぇ。知らないがいい事もあるのさ。