第六話 告白
無事、家には到着し、俺は決心が鈍らないうちに二階へ駆け上がった。
窓を開け、ほうきの柄で蓮の部屋の窓をたたく。
もうここまでは何も考えなかった。
コンコン
何の反応もない。
もう一度、あきらめずに窓をノックする。
コンコン
あんまりしつこくノックするとウザがられそうで、ひとまずここでノックするのをやめて
しばらく待っていると、レースのカーテンの向こうに人影が動くのが見えた。
カーテンがめくられ、窓が開けられるとそこには憔悴しきった様子の無表情の蓮がいた。
「蓮君・・・休みなのに、ごめんね。
昨日なんか思いつめてたみたいだから、すごい心配になってさ。
何から話そうかすげー迷うけど、とにかく蓮君と話したくてさ。
あと色々聞きたいこともあって・・・。
もし、話してくれるなら俺、ちゃんと聞くから!
ちゃんと受け止めるから!
・・・でももし、どうしても話したくないなら、もう何も聞かない。
蓮君の嫌がることはしたくないから。」
蓮は、悲しそうな表情をして、こちらをみていた。
本当に、辛そうだった。
何か言いたげなのに、言えないような。
「・・・やっぱり、何も聞かないほうがいいのかな?
このまま事故や拉致事件のことは、スルーしたほうがいいのかな?」
蓮の表情から話すことをとてもためらっているように思えたから、
俺はもうこれ以上蓮を問いただすことはやめようかと思った。
そのとき、蓮がようやく口を開いた。
「壮君。本当にごめん。
色々心配かけたね。
もしかして、誰かから聞いて何か知ってしまったのかな?
起きてしまったことは、もう元には戻せないし、
あの事故のときの俺の判断が本当に正しかったのかわからないけど、俺のエゴだったのかもしれないけど・・・。
ただ、俺は壮君を失いたくなかった。
死んでほしくなかったんだ。
なんで・・・あの時、俺はコンビニに寄ってしまったんだろうな・・・。
なんで・・・あの時、突っ込んできた車に気づけなかったんだろうな・・・。
あれさえなければ、俺たちは何も変わらず今まで通りの毎日を送れていたのに。」
蓮は、目線を俺とは合わさずに、遠い目をしてあの事故のことを思い返しているようだった。
しばらく沈黙した後、ぽつりとぽつりとまた話し始めた。
「もう、隠しようのないとこまで来てしまっているのに・・・。
これから待ち受けてることを考えると怖くてね。
これまでの平穏な日々が崩れ去って、周りを傷つけて、悲しい思いをさせるかもしれないと思うと。
現に、壮君が昨日拉致されそうになったことで、俺は一層追い込まれて・・・。
もう、始まってしまったのかって。
もう、見つかってしまったんだなって。」
「・・・見つかるって? 」
俺は思わず聞いてしまった。
蓮は、ようやく俺の目を見て、ふぅっと息をはき、意を決したように告げた。
「壮君。俺、宇宙人なんだ。」
「・・・・・・・―――?!!!!!!」
あまりに予想外の展開に、空いた口がふさがらなかった。
息をするのも忘れるくらいあっけにとられていた。
目を大きく見開いたまま、その状態で固まってしまった。
(うそやろ・・・。)
でも、この深刻な状況で、蓮が冗談を言うとは思えない。
でもどうしても信じられない。
宇宙人なんて、そんな非現実的な・・・。
どこからどうみたって、純粋な日本人じゃないか!
一緒に育ってきたんだから。
物心ついたときから、ずっとずっと・・・。
何でも話してきたし、どんな時もそばにいたし。
俺の知らない蓮が、こんなにも大きな真実を抱えた蓮がいることがどうしても信じられなかった。
気づいたら、俺は泣いていた。
なぜだかわからないけど、つーっと涙がこぼれて、止まらなかった。
そして、力なく笑っていた。
「・・・うそやん。そんなわけあるかよ・・・。」
ふり絞って出た言葉は、こんなものだった。
蓮は、俺が信じられないというそぶりを見せたものだから、証拠を見せなければ納得しないと思ったのか、何も言わず、黙ってそこにたったままだったが、突然、体がゲル状になり、グニャグニャと動き、しばらくして形がはっきり表れたのだが、そこに立っていたのは、まさかの俺自身だった。
鏡を見るような、でもそこにちゃんと見知った俺が生きて、ちゃんとそこに存在していた。
蓮より体の小さな俺だから、来ているシャツがぶかぶかになっていた。
体だけが変化するらしい。
「こうやって、人間に擬態するんだ。モンスターでいえば、『シェイプシフター』の能力に近いね。
なんにでも生物なら変身することができるんだよ。」
そういって、またグニャリとゲル化して、その塊がどんどんちいさくなり、窓辺に現れたのはスズメだった。
((この状態になるとさすがに話せないから、いわゆるテレパシーで今話してるよ。))
蓮の声が頭の中に響いてきた。
蓮はどこにもいないのに。
((ほんとは、俺らの種同志でないとテレパシーで会話することはできないんだけど、蓮はちょっと特別なんだ。))
「頭の中で考えてること全部伝わっちゃうの? 」
((いや、本人が伝えようという意思をもってないと伝わらないよ。
マインドリーディングっていう読心術だね。あの能力は俺にはないよ。だから心を読むことはできない。))
そういうと、スズメはスズメの形をなくし、ぐぐっと大きなゼリー状の塊になったかと思うとフッと裸の蓮の姿になった。
スズメの姿になったとき、服が脱げたようで、床に落ちた服を拾い上げ身に着けていく。
「服まで擬態できれば、これ最高なんだけどね。
体型が違うと元の姿に戻ったとき、裸になるっていうある意味最悪に恥ずかしい能力なんだよね。」
俺、本当に今起きてるのかな。これ、夢なんじゃないかな。
それとも幻覚かな。
「夢じゃないかと思ってるでしょ?」
蓮は、しょうがないなって顔で笑った。
内心、やっぱ心読めるんじゃねーかと俺はちょっと焦った。
「心読めなくても、壮君の表情見てればわかるよ。」
蓮はひょういっと窓枠を超えて、屋根づたいに俺のほうに近づいてきた。
「壮君。これからのことも含めて、もっともっと話さなきゃいけないことがある。
俺が宇宙人だからって、壮君は俺を拒絶するかい?嫌いになったかい?もうこれ以上関わりたくないかい?」
「まさか! んなわけあるかい!!
ただ、あまりにびっくりして、どうしていいかわからないだけだよ。
でも、蓮君は蓮君だし! さっきまでと今とで、何も・・・か・・・・変わってないよ!!!
そう、変わらないんだよ。何にも。ただ・・・ちょっと宇宙人ってだけで・・・。」
俺は言いながら、ちょっと吹き出しそうになった。
なんかすごく深刻になってたけど、だからなんだよっていえばそれまでなんじゃないかって。
「壮君、ありがとう。
俺は、ずっと本当のこと言えずにいた。
言わなくても済む世界だったから。てか、逆に言ってしまうと混乱させてしまうし。
でも本当は、壮君にだけは言いたかった。
とういか壮君には、言わなきゃいけなかったんだ。
俺には、巻き込んだ責任があるし、壮君をこんなにしてしまったのは俺だし。」
「こんなって?? 」
蓮は、屋根の上に座って手招きした。
俺は、いつもならちょっと躊躇するのだけど、誘われるがまま屋根の上に出た。
「ちょっと、長い話になるよ。事故のときのことやなんで壮君が拉致されたのか。
真実を話すから。」
蓮の隣に腰かけて、またこれ以上に驚くような展開があるのかと内心バクバクしていたのだが、蓮が色々と悩んで考えて、全部打ち明けようとしてくれているのだから、それをどんなことをしてでも受け止めるのが俺の役割だと思った。
時間は15時を回っていた。
春らしい穏やかな天気で、見上げれば綺麗な青空が一面に広がっていた。
これから蓮から語られるどんなとんでもないことでも、なんだかなんとか受け止められる気がした。
本当のことを話してくれてありがとう。
俺はそう思いながら、蓮を見つめていた。