第二十話 作戦
敦が、ふぅっと息を吐き、顔をあげて、俺らを見回しながら語る。
「ロイから聞いた話だけど、俺が生まれたとき、俺が通常のネフィリムより体が小さかったんだ。それがしゃくにさわったのか、親父は、俺の母親を食い殺して、俺まで殺そうとしたんだってさ。自分の息子が情けなかったんだろうな。
傷だらけになっているところをロイが制止して、親父から引き離したんだそうな。
あのときロイがいなかったら、俺はここにいない。
アイツは、俺が生きていることを知らないよ。
ロイが何もかもうまく処理してくれて、死んだことにしてくれた。
こんな状態だから、俺は、親父に愛情なんて一切感じてないし、殺してやりたいくらい憎んでる。
だから、俺のことは全く気にしなくていいぜ。思いっきり、あの野郎ぶちのめそうぜ。
ロイから聞いてる話では、正直交渉や説得なんて、生ぬるいもんにアイツが応じるとは思えねぇ。
戦うしかねぇって最初から覚悟しといたがいいぜ。」
敦のあまりに壮絶な過去に、俺は茫然となった。
俺たちには、そんな悲しみや憎しみを抱えてるそぶりは微塵も見せなかった。
ただ、どこか少し乾いてて、冷めたとこがあったのは、こういう過去があったかもしれない。
いたたまれない空気の中、ロイさんが口を開いた。
「敦にも兄のせいで、ひどく辛い思いをさせてしまった。
本当は、父親とは戦わせたくはないが、最終的には、父との対決は避けられないだろう。
私自身は、今まで中立という立場に立っていた。
だから、兄ともその仲間とも一応話はできる立場ではある。もちろん味方はしないが。
兄は、地球の存在はそこまで気にかけてないから、我々の動きはまだつかんでないだろう。
蓮君たちを襲っているネプタリアンは、末端の連中だ。兄にまで情報が伝わってないと思われる。
全宇宙にレプタリアンを拡散して、ベガ種を追っているからね。
あと、今が好機なんだ。
兄は、今、新な文明を持った星を侵略していてね。それにかかりっきりなんだよ。
この隙をつくしかない。」
なんだか急にスケールの大きな話に、俺はちょっとびびってきた。
星人同志の対決が始まる。
しかも宇宙を舞台に!!
「具体的な戦略は? 」蓮が、するどく質問する。
「近々、大規模な戦争が起きると思われる。
兄の部隊の精鋭たちがそろって、出陣すると思われる。
兄が星を出るということは、まずないだろう。あのひとは、指示するだけで自ら手をくだすことはめったにない。
敵が手薄になったその時を狙って、潜入する。我が星への手引きは私が責任もって行おう。
まず、研究所を占拠して、ベガ種を解放し、ベガ種の能力を制限している装置をすべて破壊する。
そのあと、一気に兄の居城へ攻め込む。大人数による肉弾戦になるが、あの兄を倒すとなったら、これだけの人数でも足りるか正直不安だ。
私も、そのときは力を完全解放して、戦うつもりだが・・・。
早い話、兄さえつぶしてしまえば、あの一段は崩れ去ると思われる。
それだけ、兄はあの組織にとって、カリスマ的なリーダーとして君臨しているんだ。
詳細な戦略は、今後つめていきたい。」
まさか、戦いのために宇宙に飛び出すとは思いもしなかった。
とんでもない展開になってる。
俺はどこまでついていけるのだろうか・・・。
「壮君。君は我が星に降り立つ、最初の地球人だね。
私の星は、地球に似た環境だから、適応できると思うよ。
空気もちゃんとある。海も山もある。太陽に近い存在は3つあるけどね。
ちょっと暑いかな?」
「は・・・はぁ・・・。」
お・・・俺もやっぱ行くのか・・・!
人類初ネフィリムの星への着陸!!!
月面着陸どこじゃねーぞ!!
「私が、間に入って、向こうの情報を逐一こちらに流す。
スパイとして動こう。私がこちらの組織にかかわっていることは、一切兄側には知らせない。
戦いは短期で終わらせたい。一気呵成で行こう。
そのための準備は抜かりなくやる。資金や必要物資は私がなんとかしよう。
一応ね、いつかはなんとかしたいと一人でコツコツ作戦を立てて、いろいろと準備をしてきたんだよ。」
うんうんと蓮は、ロイさんに理解を示した。
「ロイさんの思いは十分伝わりました。
我が同胞のために、よくそこまで思い立っていただきました。感謝します。
戦いの時期が目前に迫ってきているのはわかりますが、少し時間をいただけますでしょうか?
同胞とコンタクトを取ってみます。こちらの意思統一も必要ですので。」
「そうですね。一致団結しなければ勝てる相手ではありません。
ベガのみなさんの意思統一は、蓮さんのほうにお願いします。
この好機は逃せません。
どうかよろしくお願いします。」
壮大な計画に、俺はただただ気の引き締まる思いだった。
さっきまで、3人でワイワイ修学旅行気分で、訓練していたのがなんだか遠い昔のようで。
ロイさんがきて、世界の色が変わった気がした。
本当に、命をかけた戦いが始まる・・・。
俺は、練習だけで、結局一度もまだ実際の戦闘したことないのに・・・。
どうするんだ、これ?!!!
そのとき、ふと森さんのことが浮かんだ。
俺は、慌ててロイさんに確認した。
「あああ!!!!
ロイさん、聞いてください!
僕の大事なクラスメートが、レプタリアンに拉致された可能性があるんです!
このまえ、森さんに擬態したレプタリアンに襲撃されたんですが、森さん本人がまだ生きてる可能性もあって。
何か俺らを襲った地球のレプタリアンの情報をつかんでないでしょうか?!!」
蓮も付け加えて続けて話す。
「目下、我々の目標は、地球に来ている襲撃犯をなんとかすることです。
敦の父親や捕らえられたベガをなんとかするのは、そのあとかもしれません。
まずは、家族やクラスメートの安全を確保したいのです。
どうにかして、やつらを抹殺したい。」
蓮の口調がいつもよりキツくて驚いたが、それだけこの件について思いが深いのだろう。
俺も、さっきの話は壮大すぎて、ピンとこなかったが、森さんを救うとなれば話は違う。
「実はね、それについては調査を進めていてね。
やつらのアジトらしきものは、すでに検討がついているんだ。
とにかく素行が悪いやつらでね。
人間に危害を加えている輩も多いんだ。
敦と二人で監視して、何人かはすでに始末したんだよ。
なかなか、ボスが姿を現さなくてね。出てくるのは末端の雑魚ばかりで。
もし、捕らわれてるとするならば、そのアジトだと思われるよ。
ただ・・・、擬態されたんだとすると・・・彼女は・・もう・・・。」
「生きてます! 」
俺は、言い切った。
絶対生きてる。俺はなぜか根拠のない自信があった。
そうじゃなきゃ・・・、俺の心は折れてしまう。
ロイさんが、俺をじっと見た後、うなずく。
「そうだね。生きてることに賭けて、戦おう。」
「はい! もう、明日の訓練切り上げて、救出作戦を決行しようよ!!
今から作戦会議!! 」
俺は、一刻も早く動き出したかった。
その様子に周りは少し驚いていたが、全員一致で賛同を得ることができた。
ロイさんが、PCを立ち上げて、地図を出し、アジトを指さした。
「アジトと思われるのが、この倉庫跡地だ。今はもう使用されておらず、廃墟のような状態になっている。
日中の敵の出入りはあまりなく、夜になると活動が多くなる。
明日、日が昇ってから忍び込み、森さんを探し出し救出しよう。
日中なら見張りが一人二人ってとこだろう。
もし、森さんがそこにいなければ私が聞き出す。それまで待機しておいてくれ。
そのあと、夜に敵を一網打尽にしよう。
今残っている敵は、確認できているだけで十数人いる。
ボスもそのとき出て来れば、一番ベストではあるが・・・。
一網打尽にできなければ、兄に連絡が行き、地球に兄の部隊が差し向けられる可能性がある。
そうなることだけは避けたい。」
ロイさんが顔をあげて、俺たちを一人ひとりみながら言った。
「敦はともかく、蓮君も壮君も実戦慣れしてないだろう。
いくら回復能力があるとはいえ、回復が遅れれば死ぬ可能性も壮君についてはある。
戦いながらの回復となるとそこまでの余裕はないはずだ。
今回は、いきなりの実戦ということもあるので、できるだけ慎重に行きたい。
こちらの被害を可能な限り少なくしたいと思っているので、できたら今回は私に連携の指示を出させてほしい。
私がまず、中の様子を確認し、敵の人数や配置等の確認をする。
そのあと、3人に指示を出す。実戦訓練の意味も込めて、今回は3人は戦闘に特化してほしい。
もちろん形勢次第では私も即戦闘に加わるが。
いかがだろう?」
「俺は、ロイの意見に賛成だぜ。誰かが全体を見て指示をくれるほうが、戦いに集中できていい。」
俺と蓮は、顔を見合わせて、お互いにうなずいた。
「よし、3人とも賛同してくれてありがとう。
ただ、ここで一つ問題がある。
敦は同じネフィリムとして、戦闘能力はある程度把握できているが、蓮君と壮君に関しては、私はまだ何も知らない。できたら、二人の能力について、私に見せてもらえないか。
3人の能力を知ることで、的確な指示が出せると思う。」
ロイさんの言う通りだ。
俺たちの能力は、ちょっと特殊だから、連携できてこそ活きてくるスキルも多い。
まだ明日の朝までには時間がある。
「そうですね。僕と壮君の・・・特に壮君の力は特殊なので、うまく使えればある意味無敵です。
昼食あとに、訓練を再開しましょう。明日の予定にしてた3人連携シミュレーションをこれからやりたいと思います。もしよければ、ロイさんに岩人形を操ってもらえないでしょうか?」
「おお! いいなそれ! ロイは俺なんかよりよっぽど戦闘慣れしてるし、強いし、かなり手ごわい相手だぜ。
すげー、楽しみ! 」
敦が、興奮気味に話す。
そんな敦を見て、笑いながらロイさんがうなずいた。
「わかりました。このお3人を相手するには、私では役不足かとは思いますが。年の功もありますので、精一杯お相手を務めさせていただきます。
明日が、実戦ということもありますので、本気でいかせていただきますよ。」
「お、俺、めっちゃがんばります!
明日、なんとしても森さんを救い出したいので!
フルパワーでがんばります! 」
俺は、気合十分で宣言した。
「すげーヤル気だけど、明日が本番だからな!
これからの連携演習、手は抜かないけど、明日のことも念頭に入れながらやらねぇとダメだぞ。」
敦が、俺にくぎを刺す。
「まあ、いざとなったら、俺の回復能力を使うから、怪我は恐れずに戦ってみて。
何度も言うけど、即死しないようにね。」
すかさず、蓮がフォローを入れてくれる。
「練習で死んだら、アホみたいだな。壮ならやりかねんけど。」
「死ぬかよ!!!! もう無鉄砲なことはしないって心に決めたんだ!
なんてったって、俺には必殺技があるからな!
何をやるにも俺だけには考える時間があるのだ! 」
ロイさんが、「ん? 」という表情をした。
「ロイさん、びっくりしますよ。後で、披露します!
っていっても、いまいち俺以外はピンとくる能力じゃないんですけどね。」
「まあ何はともあれ、方向性は決定したことだし、飯にしようぜ! 」
俺たちは、昨日の残ったカレーを食べきることにした。
今日は夜早めに寝て、早朝移動を開始する。
森さんを助けるための訓練。
明日を乗り切るために。
午後、ついに、初めての3人連携攻撃にとりかかる。
武者震いがした。




