第十九話 対面
敦が、叔父さんを連れてきた。
体は、敦より一回り大きく、身長は190cm以上あるように見えた。
敦いわく、ネフィリムはどうしてもヒト化する際、大きさに限界があり、デカくなってしまうとのこと。
白めの灰色のトレンチコートを羽織り、銀縁の四角い眼鏡をかけていた。
白銀の髪は、長く縮れており、後ろに一つで束ねている。
色は黒く、目が青い。白人風の顔立ちである。
目元は、鋭く、口元と眉間に大きく皺が刻み込まれている。
理知的で、端正な面持ちだった。
「こんにちは。地球では、ロイ・ハートと名乗っております。
甥の敦が大変お世話になっているようですね。
凶暴なレプタリアン達にもひどい目にあわされてるようで。
敦から話は聞いていて、ずっと気がかりでした。」
低くて、鮮明な声は、すっと耳に入ってきた。
「初めまして。三上 蓮。ベガ種です。
本日は、わざわざご足労いただき、申し訳ございません。
色々とお聞かせいただけると幸いです。」
蓮が、中学生とは思えないような大人の挨拶をした。
俺も慌てて、自己紹介をする。
「あ、えっとぉ、寺井 壮です。
一応人間・・・だったものです。今はちょっと半人間、半宇宙人みたいなもんになってます。
いっぱい聞きたいことがあるので、どうぞよろしくお願いします! 」
俺なりに精一杯大人びたことを言ってみたつもりだ。
ロイさんは、にこやかに微笑みながら、「どうぞよろしく。」と会釈してくれた。
なんだか頼もしい大人の素敵な紳士って感じで、俺はとても好感が持てた。
蓮は、まだ少し緊張してるのか表情がこわばってる感じだった。
敦がそれを察したのか、割って入るように言った。
「午後の訓練の前に、せっかくロイが来てくれたことだし、ちょっとまずは聞きたいこと聞くか!
色々ともやもやしたままだと、訓練にも集中できないもんな!」
「そうだね!! それがいい! 」
俺も賛同し、蓮もうなずいた。
リビングへ移動し、ソファに腰かけた。蓮が飲み物を準備しに行く。
「壮君は、宇宙人という存在にびっくりしたでしょう? 」
ロイさんは、ちょっと何を話していいかわからずどぎまぎしている僕を察して、気遣ってくれた。
「あ、はい・・・。正直、蓮に告白されたときも、敦の戦ってる姿見たときも度肝抜かれました。
もう、毎日が驚きの連続でして。でも不思議と受け入れられたんです。
二人は、二人だから。たとえ、宇宙人であろうと俺にとっては、ずっと変わらず友達です。」
俺は、まっすぐにロイさんを見て言い切った。
ロイさんは、そんな俺を優しい目で見ていた。
「そうか・・・。敦も蓮君も幸せ者だね。変わらない友人がいてくれて。素晴らしいことだと思うよ。
僕なんて、まだ誰にも地球上の知り合いには打ち明けられないのに。」
「マジかよ・・・。でも俺も打ち明けてるのって、地球の里親と壮達だけだけどな。
別に教える必要もないかとは思ったけど。同じ地球に住んでる仲間だぜ。種が違うだけだろ?」
敦があっけらかんと答える。
「敦は、壮君や里親の良心に守られているから、そういえるんだよ。
ネフィリムにもいろいろといるように、人間にもいろいろといる。今は人間が地球を支配している。
そこに、人間を上回る高等生物が現れたとしたら、どうなるだろう。
間違いなく、戦争が起きる。人類 vs 宇宙人だ。
私は、人間が好きだからね。それだけは起こしたくない。
人と共存していくには、我々が人間として生きることなんだよ。」
「まあな。それが最適解だよな。下手な争い起こさないためには。」
敦がうんうんとうなずく。ロイさんには頭が上がらないようだ。
蓮が、全員分のコーヒーを持ってきた。
ロイさんが蓮のほうを見ながら、申し訳なさそうな表情をした。
「蓮君。君の種族に対する我が同胞達のひどい仕打ちを心からお詫びしたい。
兄の暴挙を止められずに申し訳ない。この残酷な行為を一刻も早く止めたいと思っています。
このたび、ひょんなことからベガである蓮君と知り合うことができて、大変光栄に思っています。
ネフィリムである我々とベガである蓮君達の同胞とともに共同戦線が組めれば、あの兄にも勝てる可能性がでてきます。」
蓮が、ロイさんの話をさえぎるように質問した。
「捕らえられた私の同胞は、今どういう状況なのでしょうか? 」
心配でしかたなかったんだろう。蓮は真剣な表情をしている。
「捕らえられたベガ種はすべて、兄の研究施設に隔離されています。
ベガ種は、もうおわかりかもしれませんが、超回復能力があり、不老不死です。
よって、我々によって殺されるということはありません。
ただし・・・、数は不明ですが、絶望のあまり、自死の道を選んだベガ種がいるのも確かです。」
「自死?! 」
俺は驚いた。自殺ってこと?!
蓮が、悲しそうな表情を浮かべて、説明してくれた。
「自殺ってことだね。ベガ種はね、自然に死んだり、殺されたりってことはないんだ。
ただ、唯一自分が死にたいと願ったときだけ、死に至るんだよ。
でもよっぽどのことがないと自死するベガ種なんていない。今まで一度も聞いたことがない。
だからベガ種は個体数も少なくて、何百年に1体の割合でしか誕生しない。超希少種なんだ。
自死を選ぶなんて、どれほどの過酷な状況に追い込まれたのやら・・・。」
「テレパシーで会話して、仲間で脱出とかできないのかな?? 」
俺の質問に、ロイさんが答える。
「ベガ種のことを兄はだいぶ研究しててね、ベガ種同志がテレパシーでコミュニケーションをとることを阻害する装置を作成しててね、テレパシーを使えなくしているそうだ。
同胞愛の強いベガ種を一体ずつ隔離して、監禁してね、お互いを人質のような形で脅してるらしい。
お前が逃げたら、同胞を自死に追い込むとかなんとか言ってね。」
「ひどい・・・。なんの権利があって、そんなひどいことができるんだ・・・」
俺は、眉をひそめた。
俺ですらこれほど胸糞悪い怒りが沸々と湧いてきたのだから、蓮の気持ちを考えるとやるせない。
敦は、目を伏せて黙り込んでいた。
「ネフィリムのすべてが、この残虐な行為に手を染めているわけではない。
兄の一派が主導者となり、3つのレプタリアンとグループになり、行っている。
そこまで大きな組織ではないのだが、何せ兄の力が強大でね。
ネフィリムの進化を第一と考えて、とにかく回復力を得たいようなんだ。
確かに、回復力を手に入れて、不老不死となれば、ネフィリムは宇宙一の種族になるだろう。
兄は、それを夢見ている。」
立て続けに、ロイさんが話し続ける。
「もし、仮にその力を手にして、不老不死を手に入れたら、次に着手するのは、全宇宙の支配だ。
地球も侵略されるだろう。未来には地獄しかない。
なんとしても、兄を止めなければならない。ぜひ、力を貸してほしい。
兄の暴走を止めて、ベガ種への介入をやめさせ、捕らえらえた彼らを解放したい。」
ロイさんが、強いまなざしで、蓮をまっすぐ見て言い切った。
蓮は、少し間をおいて、ためらいがちに敦を見た。
「敦は・・・、お父さんと戦うことになるのだけど・・・。
ずっと気になってた。お父さんを説得できれば一番だけど、もし説得できなければ強硬手段にでることだってありえるよ。もしかしたら、お父さんを・・・。」
それ以上は、蓮は口にしなかった。
みんなわかっていた。敦の父親を殺さないといけないかもしれないということに・・・。




