表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

第一話  奇跡

 「んー・・・・・・。」


目覚めたらそこは病室だった。

なんで自分が病院にいるのか、皆目見当がつかず、

上半身を起こしたまましばらくぼーっとしてしまった。


そう君?」

仕切りのカーテンをめくって、ひょこっと顔を出し、声をかけてくれたのは幼馴染の同級生の三上みかみ れんだった。


「おお、蓮君!」

見知った顔が現れてちょっとほっとした。


「蓮君、すまん。俺なんで病院いるの??なんか頭がぼーっとして

思い出せないんだわ。」


蓮は、心配そうな顔をして、ベッドの横の椅子に腰かけた。


「壮君、覚えてないの!?

コンビニでさ、二人で買い物してたら、

突然、車が外の駐車場から突っ込んできてさ。

壮君が俺をかばって、変わりに車にはねられたんだよ。」


さらりと語られたとんでもない事実に驚いて俺は、焦りつつ布団をめくって体を確認した。


「まじかよ~!ってことは、

俺、どっか怪我してんのかな??なんか全然どこも痛くないんだけど・・・。」


全身くまなく見てみたが、かすり傷一つなく、痛みも全くないこと違和感を覚えた。


「・・・・・・奇跡的に・・・無傷だったんだよ。」


蓮は何か他に言いたそうだったが、それ以上何も言わなかった。

そんな蓮の様子を横目に、俺は自分の身に起きた奇跡に感動していた。


「運よすぎだろ・・・俺。こんなことってあるんだな~。

でも変だな~。全く何も思い出せないわ。

無傷だけど、記憶は吹っ飛んだかもしれん。

まあ、いっか!一応体は無事だし、オールオッケーってことで!」


俺は能天気に笑った。


「蓮君は、大丈夫なの?怪我なかった?」

「うん。俺は大丈夫。壮君が完璧に守ってくれたから。」


蓮は、申し訳なさそうに笑った。

蓮とは、ご近所さんで物心ついたときから一緒にいた幼馴染だ。

かれこれ付き合いは15年になる。

同じ年にも関わらず、蓮のほうが先に成長期を迎えて、身長が一気に伸びて今では俺より頭一つ分上だ。

声変わりも先にして、もともと低かった声がさらに低くなった。

痩せ気味ではあるものの、走るのが好きで毎朝のランニングで体は鍛え上げられてる。

あまり日焼けしない体質らしく、肌の色がとても白い。

俺も白いほうだけど、蓮の白さは青白い透き通るような白さだ。

目は切れ長で涼し気な印象を与えるけれど、少し目じりが下がり気味なので、笑うととても優しい表情になる。

いつも冷静で、穏やかで、物静かだけど一緒にいてとても居心地がいい。


それに比べて、俺はというと・・・内弁慶のひ弱なおしゃべりチビである。

仲間内ではペラペラしゃべるが、一歩その輪から出るととたんに人見知りシールドが発動して、一言も話せず、その場で固まってしまう。

内輪ではキャンキャンうるさいけどあまりに弱っちぃので、「眼鏡をかけたチワワ」と友人たちからはいじられる。

コンタクトにしたいけど、目に異物を入れるのが怖いので、どうしても眼鏡を手放せずにいる。

もういいのだ。眼鏡は俺の顔の一部だから。

それに、眼鏡をかけようが外そうが、俺の顔面偏差値はさして変わらない。

可も不可もない普通の顔。眼鏡以外の特徴ができればもうちょっとほしかったところである。

蓮のようなイケメンが隣にいるとこの普通さが際立つわけで。

顔面というかいろんな面で男としての格差が開きっぱなしで、悲しみが日々増していくのだが、何はともあれイイヤツなので、俺はもう開き直っているのだ。


「壮君は、ほんと友達のこととなるととたんに、無鉄砲になるな。

自分のことだとそうでもないのに。今回の件は、庇ってくれてうれしかったけど、本当に心臓が止まるかと思うほど驚いたんだからね。

目の前で、壮君が人形みたいにすごい勢いで飛んでいったんだから。

もうだめだと思った。壮君があのとき死んでしまってたらと思うと・・・」


蓮が事故のことを思い出してるようで辛そうな表情をしていた。


「ごめんごめん。んー、全く覚えてないけど、無我夢中だったんだと思うよ。

俺アホだから蓮君助けて、そのあと自分がはねられるとか、たぶん全く思いもしてなかったんだと思うわ。ほんと心配かけてすまんです。」


と助けたはずの俺がなぜか最終的に平謝りするという不思議な構図になっていた中で、医師とともに看護師さんと母親が病室に入ってきた。


寺井てらい そう君だね?意識ははっきりしてるみたいだね?

なんか体に違和感とかあるかい?痛みとか。」


医師の問いかけに、俺は痛みはないが事故の記憶がないことを伝えた。


「うんうん。あの大事故で無傷ってのが本当に奇跡だけど、事故のショックで

一時的な記憶喪失になっているんだろうね。ただ、頭のレントゲンやMRIにも異常所見はなかったので、特に大きな問題はないと思われます。時間が経てばもしかしたら記憶がよみがえるかもしれません。ひとまず、退院を許可します。もし今後の生活で少しでも体に異変を感じたら必ず受診してください。」


母ともども医師と看護師さんへ深々と頭を下げて、退院の準備し、別の用事があった蓮と病院で別れ、母とともに家路についた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ