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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:シャナ・ユベールの奇妙な文通相手
97/146

6,

 シャナが向かった先は、とある男爵の家だった。


「……お嬢様のお呼びによって、はせ参じました。何分突然のお呼びでしたので、朝早いですが、通していただけますか?」


 門番の兵士にそう声をかけて通してもらったシャナは、そっとため息をついて、門をくぐり、豪華で品のない玄関を抜けて、部屋に通してもらった。


「随分と、肝のある女のようね」


 どぎつい香水の香りを身にまとってやってきたのは、絢爛なドレスで着飾った金髪の巻き毛の女だった。シャナより年は幼いだろう。つまりは十代後半程。


「ええ。それは、あのお兄様を持っていれば、お分かりになると思いましてよ?」

「下賤の女がそんな言葉遣いをするもんじゃないわっ!」


 きい、と響くような声で癇癪を起して、持っていた扇でシャナの頬をぶった女は、そばに控えていた執事にたしなめられて、上座に座らせられた。


「それで? 私に御用とは?」


 出されたお茶に手を付けずに冷ややかに男爵家令嬢を見やったシャナは、うっとりとその目を緩ませた女に目を細めた。


「セザール様から、手を、引きなさい?」


 セザールを呼ぶ時の声だけ甘くさせた女に、シャナは、眉を寄せて唇を固く閉ざした。吐き気をこらえるように。


「あの方はね、市民のような、賤しい女はふさわしくない、高貴な方なのよ? お分かりになって?」

「……ええ。兄よりずっと高い位にいるということは聞き及んでいます。それと、詳しいことは、迷惑をかけるといけないからと、彼からは聞いておりません。……彼が話したければ、私も聞くといいましたが、教えてくれませんでしたね」

「当たり前だわ。あの方のなさるお仕事など、賤しいあなたには到底お分かりになることなどないもの。ねえ? ギルバート?」

「……」


 あいまいな笑みを浮かべる執事に、シャナは冷めた目を送って、ああ、と納得した。彼は、シャナの正体に気付いている。


「どうしたの? ギルバート?」

「お言葉ですが、お嬢様?」

「なによ。私の言葉にうなずけないとでも?」

「しかし」

「……ギルバート様。私のことはいいです。兄にも言いませんので。そうでなければ、あなたの立場も危ういのでしょう? 兄は事情あるものは寛大な処遇をします。ただ」

「……」

「ただ、私利私欲のために人を害するものに対しては、それも、身内のものを害する敵であれば、一切の情を見せずに、首を狩ることができる人です。お忘れなきよう」


 言外に、言葉で貶しても告げ口はしないが、暴力を振るったら容赦はしないというシャナに、顔をひきつらせた執事。


「何よ。あなた、私の執事にも何かをしたの?」

「いいえ。答えにくそうだったから言ってあげただけだわ。どこかのおつむのない女より、そちらの執事さんのほうがよっぽどお話が通じそうだったから。ねえ、あなた退席してくれない? さっきから香水臭くて吐きそうなの」


 きっぱりと告げるシャナに、護衛含め、吹き出しそうになる顔をそっぽに逃してこらえていた。

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