5、
そして、シャナを上の部屋に寝かせて、二人は、カレンがいるにもかかわらず下で話し始めた。カレンは呆れたようにため息をついたが、お茶を入れて、軽食と一緒に出す。
「さて、どうとっちめる?」
「僕が行くしかないでしょう。彼女と関係がないことをいうしか……」
「いっても聞かないよ」
「え?」
カレンが冷めた目をしてセザールを見ていた。
「言って聞くようなやつだったらこんなことしない。正々堂々あんたを捕まえて問い詰めると思う。行ったら、婚姻に同意するぐらいの言葉をもっていかないと返してくれないかもしれない」
「……」
「それぐらいしないと、今回のことは終わらないと思うよ。それか、塀の中にぶち込むかね。ぶち込んで出所したら大変なことになるけれど」
「首狩っちまえばそんなこともねえけどな」
「こら」
「まあ、僕も考えましたが」
「やだ、こいつら」
まっとうな価値観を持つカレンが嘆いたところで、二人の考えは止まることはない。
「隠ぺいが面倒です。当主であればそれなりな言い訳も付きますが、もっぱらの狙いは令嬢ですからね。隠ぺい工作も含むと、あと数か月ほしい」
「だが、そんな悠長なこと言ってられねえだろ」
「ええ」
うなずいたセザールにオーランドは目を細めた。
「いっそシャナの影武者でも立てるか? お前、人形師と知己だと言っていたな?」
「こんな痴情のもつれに近いごたごたにあの人を引っ張ってこれると思います?」
「いや、無理だな」
「無理な可能性を提示しないでください。……」
ため息をついて、セザールがシャナの眉根の寄った寝顔を思い出して眉をひそめた。
「すべては僕が悪いんです。僕が何かをしないと……」
まるで自分を追いつめるような言葉に、オーランドもカレンも、気にするなとは言うことはできずに視線を交わして無言の会話をするしかなかった。
そして、その朝だった。
とにかくできることはしてみますというセザールを見送って、オーランドがシャナが眠っている部屋に戻ると、窓が開け放たれて、シャナの姿はこつ然といなくなっていた。
ひゅう、と冷たくなってきた風が部屋を渡った。
「……おい、嘘だろ」
呆然としたつぶやきに、寝ぼけ眼のカレンが首をかしげてオーランドのわきからひょっこりと顔を出して、眠たげだった目を見開いた。
「ちょっと、どうするの!」
「セザールに言うしかねえ。あのバカ!」
部屋を抜け出して、姿を消したシャナに、自分のことは棚に上げ、舌打ちをしたオーランドは、セザールを呼び止めるために、王城への道を行くのだった。




