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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:シャナ・ユベールの奇妙な文通相手
90/146

4、

「眠ったか?」

「ええ」


 すう、すう、と間遠な息をするセザールを見て、いつの間にか入ってきていたオーランドがシャナに声をかけた。


「これ、少ないが、薬だ。秤がないから、何ともできないのだが、できる限りの小スケールで調合した」

「はい。後で、何か食べさせてから飲ませます」

「頼む。すこし、診察をしてもいいかな?」

「ええ。かまいませんよ」


 シャナの手をちらりと見たオーランドは、何も言わずにシーツをめくって薄いシャツを丁寧にボタンを外す。そして、セザールの服がはだけられ、オーランドお手製の聴診器が胸にあてられる間も、ずっとシャナはセザールの手を握って手の甲をさすっていた。


「特に中はやってないな。きれいな音がする」

「きれいな音?」

「ああ。今聞いていたのは、心の臓の鼓動の音と、息の音。鼓動は熱があるから、早めだが異常ではない。息の音は、こういった高熱を出すときに、濁った音になることもある。それもないから、もう、これは疲れだ」

「寝ていれば治るものですか?」

「ああ。食っちゃ寝してれば、よくなる。肺炎じゃなくてよかった」

「はいえん?」

「息の音が濁っているときな、そういう状態になるんだが、そうなれば、今のここの設備じゃ、どうにもできなくなる可能性がある」

「それって」

「バカしなければ大丈夫だ。心配いらねえ」


 よしよし、とシャナの頭を撫でてオーランドは笑う。


「そのために俺がいるんだからな。とりあえず、部屋から出すなよ。季節の変わり目で風邪が増えている」

「わかりました」


 看病するときの注意を聞いてシャナがうなずいて柔らかく握り返された手にふっと表情を緩ませた。


「まあ、こんなところだ。飯もこっちに持ってくるからお前もここで食っちゃえな」

「はい。ありがとうございます」


 オーランドが出ていくのを見送って、シャナは、ぎゅっと手を握り返してやった。


 それから、夜中にぼんやりと目を覚ましたセザールにパン粥を食べさせ、オーランドの薬を飲ませ、寝かしつけ、と看病を続けていた。

 そして、シャナは、看病を続ける数日の間に、診察しにオーランドが入ってきた瞬間にセザールが目を覚ます、ということに気付いた。


「お兄様」

「なんだ?」


 セザールが着替えたい、と言ったために、一度部屋を出たシャナが、オーランドを呼び止めて、そのことを言った。


「……配慮が必要、か?」

「寝入ったのにすぐに起きるっていうことも、ざらです。だったら、ご飯食べている間などに来てもらったほうが、セザールさんも休めると思います」


 四日間の観察結果、ともいえるその報告と助言に、オーランドは、分かったと苦笑した。


「お兄様?」

「いんや。お前も頭いい子だと思って。母上によく似てる」

「え?」


 きょとん、と首を傾げたシャナにオーランドは自分と同じ色の髪を撫ぜて、ふと思い出したように部屋を見た。


「蒸しタオルでも持って行ったほうがいいな。着替えなら」

「あ、そうですね! もって……」

「いかんほうがいい。俺が行く。お前も、ゆっくり風呂も入れなかっただろ。俺も手が空いたから、あいつの相手をやっとく。息抜きしとけ」


 脂髪に気づいたオーランドがそう気を回すのに、シャナは、はっと目を見開いて、そして赤くなった。


「すいません……」

「いいんだ。ま、あんまり待たせるのもあれだろう。とっとと行ってとっとと上がってきな」


 笑って浴室を貸してくれたオーランドにうなずいて、浴室に入った。すると、すぐにカレンがやってきて一声かけて着替えを置いて出ていった。端からそのつもりで二人で話していたのだろう。

 シャナは、少し気まずくなりながらも、手早く入浴を済ませたのだった。

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