2、
「すこし、雑貨屋さんに入りませんか?」
「ええ」
セザールに横をしずしずと歩きながら、近くに見つけた雑貨屋に入る。それなりに人が入っていて、カップルが多かった。
「アクセサリーなどは持っていますか?」
「え? いえ、……その」
「男と出かけたのに、一つも贈り物をされてないなど、女性の沽券にかかわることでしょうから、一つ、選ばせてください」
「え? ええと、え?」
「僕に、何かを贈らせてください」
遠慮はいいです、僕の勝手で贈ります。と強く言われてしまえばシャナには断る理由もない。こくんと、うなずいて、何も言わずにセザールの後ろをついていくはめになった。
「ふむ、これと、これ、ですね。一緒に包んでください」
そういって、小さなかごに入ったものを会計に出したセザールが、シャナに隠れて金を払う。
「出ましょう? それとも、何か気になるものでも?」
「え? いえ。きれいな品物がたくさんあるなあ、と」
「ええ。ここはいいお店ですよ。アクセサリーのこういう肌に当たる継ぎ目が丁寧に処理されていますからね。ちゃんと使い手を思いやった方が作っていますね」
さりげなく店の片隅にいた、汚れたエプロンを身にまとって客の流れを見ている初老の男を見やったセザールが笑う。
そして、店の外に出て、近くの公園に入る。
「はい、これを、あなたに」
かわいらしい紙袋細工に包まれたものを受け取って、眼だけで開けていいかを聞く。
「ええ。どうぞ」
柔らかくうなずかれて、シャナは、細工を崩さないように丁寧に包装を解いて、中を見る。
そこに入っていたのは、ネックレスと髪留めの紐だった。
「仕事の邪魔になるといけませんからね。手の近くにつけるものは避けると、こうなってしましたね」
青く澄んだ石を小さく埋め込んだトップが、細かくつないだチェーンに通されている。控えめながらも、シャナによく似合ったものだった。
髪をくくる紐は、赤と暗い赤にさし色に白が組み入れられた、組紐調のしっかりしたもの。
編み込まれたひもの間に、金属の輪を通して、小粒の真珠の連なりがあり、さりげなく髪を彩るものだった。
「こんなの……」
「お気に召しませんか?」
「いえ。……とても素敵です」
好みど真ん中のものに、シャナの顔が明るくなっていく。その顔に、セザールが笑う。
「それはよかった。ぜひ、使ってくださいね?」
大事にカバンにしまって、シャナはセザールを見上げた。
「ありがとうございます。セザールさん!」
「……っ、いえ。こちらこそ、せっかくの休日に付き合っていただき、ありがとうございます」
さて、帰りましょうかね、と、セザールのエスコートでカレンの医院に帰ると、ちょうど忙しい時だったらしい。
「あー、シャナ? すまん。相手できねえ」
「……良ければ、このまま送りましょうか?」
「そーしてくれ」
オーランドが患者を呼ぶついでに応対する。しっかりと様になっているその姿に、セザールとシャナは顔を見合わせて笑いあったのだった。
そして、シャナは、セザールに送られて家へ戻っていった。
「おや、かわいいもの買ってもらったじゃないか」
「……何かお礼をしたいんですけどねえ」
翌日の店番から、髪留めを使い始めたシャナがうれしそうに笑う。
「そうだねえ、ペン、なんかはどうかな? 彼、事務仕事の人だろう?」
「ええ。そうですね! 今度、何か見繕ってみます。ありがとうございます」
笑うシャナに、カレンの父親は笑ってうなずくのだった。




