表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:シャナ・ユベールの奇妙な文通相手
83/146

2、

「すこし、雑貨屋さんに入りませんか?」

「ええ」


 セザールに横をしずしずと歩きながら、近くに見つけた雑貨屋に入る。それなりに人が入っていて、カップルが多かった。


「アクセサリーなどは持っていますか?」

「え? いえ、……その」

「男と出かけたのに、一つも贈り物をされてないなど、女性の沽券にかかわることでしょうから、一つ、選ばせてください」

「え? ええと、え?」

「僕に、何かを贈らせてください」


 遠慮はいいです、僕の勝手で贈ります。と強く言われてしまえばシャナには断る理由もない。こくんと、うなずいて、何も言わずにセザールの後ろをついていくはめになった。


「ふむ、これと、これ、ですね。一緒に包んでください」


 そういって、小さなかごに入ったものを会計に出したセザールが、シャナに隠れて金を払う。


「出ましょう? それとも、何か気になるものでも?」

「え? いえ。きれいな品物がたくさんあるなあ、と」

「ええ。ここはいいお店ですよ。アクセサリーのこういう肌に当たる継ぎ目が丁寧に処理されていますからね。ちゃんと使い手を思いやった方が作っていますね」


 さりげなく店の片隅にいた、汚れたエプロンを身にまとって客の流れを見ている初老の男を見やったセザールが笑う。


 そして、店の外に出て、近くの公園に入る。


「はい、これを、あなたに」


 かわいらしい紙袋細工に包まれたものを受け取って、眼だけで開けていいかを聞く。


「ええ。どうぞ」


 柔らかくうなずかれて、シャナは、細工を崩さないように丁寧に包装を解いて、中を見る。


 そこに入っていたのは、ネックレスと髪留めの紐だった。


「仕事の邪魔になるといけませんからね。手の近くにつけるものは避けると、こうなってしましたね」


 青く澄んだ石を小さく埋め込んだトップが、細かくつないだチェーンに通されている。控えめながらも、シャナによく似合ったものだった。

 髪をくくる紐は、赤と暗い赤にさし色に白が組み入れられた、組紐調のしっかりしたもの。

 編み込まれたひもの間に、金属の輪を通して、小粒の真珠の連なりがあり、さりげなく髪を彩るものだった。


「こんなの……」

「お気に召しませんか?」

「いえ。……とても素敵です」


 好みど真ん中のものに、シャナの顔が明るくなっていく。その顔に、セザールが笑う。


「それはよかった。ぜひ、使ってくださいね?」


 大事にカバンにしまって、シャナはセザールを見上げた。


「ありがとうございます。セザールさん!」

「……っ、いえ。こちらこそ、せっかくの休日に付き合っていただき、ありがとうございます」


 さて、帰りましょうかね、と、セザールのエスコートでカレンの医院に帰ると、ちょうど忙しい時だったらしい。


「あー、シャナ? すまん。相手できねえ」

「……良ければ、このまま送りましょうか?」

「そーしてくれ」


 オーランドが患者を呼ぶついでに応対する。しっかりと様になっているその姿に、セザールとシャナは顔を見合わせて笑いあったのだった。


 そして、シャナは、セザールに送られて家へ戻っていった。


「おや、かわいいもの買ってもらったじゃないか」

「……何かお礼をしたいんですけどねえ」


 翌日の店番から、髪留めを使い始めたシャナがうれしそうに笑う。


「そうだねえ、ペン、なんかはどうかな? 彼、事務仕事の人だろう?」

「ええ。そうですね! 今度、何か見繕ってみます。ありがとうございます」


 笑うシャナに、カレンの父親は笑ってうなずくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ