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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
1章:彼にとって日常とは
7/146

1、

 彼女が、この屋敷に来たのは四年前のこと。


 町の浮浪児だったところを拾われたのだ。


 その後、乾いた土が水を吸うかのように仕事を覚え、最近は読み書きも習い始め、持ち前の賢さが、メイド、執事に評判な少女だった。


「シャナ?」

「あ、リーリアさん」

「旦那様は?」

「お休みなりました。相当お疲れになっているようで。毒のご様子は消えてましたので、単純に……」

「そう。ごくろうさま」

「いえ」


 侍女長の彼女に一礼を返して、彼女、シャナは次の仕事に取り掛かるべく動き始めた。


 シャナの次なる仕事は、シーツ干しだ。


 すぐに表に出て、先に干している仲間たちと大きなシーツを二人がかりで紐にかけていく。


「ほんと洗いがい、干しがいのないシーツよねえ!」

「全くだわ。せっかくのお屋敷があるのに、誰も泊りに来られない。何のための客室なんだか!」


 主がいないと思っているらしい彼女らは口々に言うが、すぐそこの私室ではオーランドが眠っているのだ。


「そう思わない? シャナ!」


 何も知らない彼女らと、知っているシャナ。


「あの、今日、オーランド様、仕事休まれて、そこにいますよ……」


 気まずげにそう指摘すると、彼女らは、あらやだ、と口をつぐんで黙々とシーツを干し始める。


 返事をしなくて済んだとシャナは一人胸をなでおろし、しわくちゃなシーツをぴんと伸ばしてゆく。


「でもさあ……」

「なあに?」

「旦那様は立派な方だと思うわ。貴族出身なのに親のすねをかじらず自分で稼いで私たちの給金も支払ってくれる。酒は嗜まれるみたいだけれど、女と博打もしない堅実で、借金すらない。完璧すぎる御方だと思う。でも……」


 言いたいことは、この場にいる誰もがわかった。


「硬すぎるのよねえ」


 ポツリと誰かが漏らした言葉にうんうんとうなずく一同。


 よく晴れた外の日常の風景。


 屋敷の窓からは、中の掃除をしているメイドたちが耳をそばだてて、同じようにうなずいているだろう。


「硬いっていうか、厳しいっていうか……」

「シャナが拾われてくる数か月前に、仕事をさぼって、勝手に抜け出して町に遊びに行ったメイドも即刻解雇されたしねえ」

「え? そんなことが?」

「ええ。そのすぐ後のことだったから、私たちもなおさらびっくりしちゃって」

「……」


 シャナは、ふと、自分が拾われてきた直後のことを思い出す。


「でも、私……」

「あの後風邪を引くって、旦那様もわかっていたみたいで、夜にあなたの部屋にわざわざ向かわれて薬湯を飲ませに行ったのよ? ほんと、外で旦那様とどんな関係だったのよ!」

「え? ええ?」

「あの硬派な旦那様を落とすその手腕。見せてもらいたいわ!」


 いきなり飛んだ話の方向に、シャナは目をぱちぱちとさせていると、何やら怖い雰囲気をそれぞれまとったメイドたちがじりじりと、シャナににじり寄ってきた。


「だから、何もしてませんてば! 旦那様とは、道端ですれ違ったっていうか、旦那様は私の前を素通りしていただけで、あの雨の日に……」

「雨の日に?」

「いきなり、私のところに来て、メイドにならないかって声をかけていただいただけです! それ以上は、それ以下も、何もありません!」


 きっぱりと、いつものように言うと、うそだ、と口々にシャナに向かって言う。


 女三人寄れば姦しいとは、まさに、このことだろう。


「そんなにしてると、旦那様起きだしてきますよ! ただでさえ体調悪そうなんだから……」


 そう口にすると、ぴたっと、メイドたちの口撃が止む。しかし、目はまだ許していない。


「だから、皆さんが噂にされているようなことはありませんから!」

「でも、好きなんでしょ?」


 その言葉に何も返せずにぴき、と固まっていると、次々に声が上がりはじめた。


「前、お部屋に入ったら、旦那様と同じような本読んでたし」

「ナニソレ」

「薬草とか、そっち系の話よ。ほら、旦那様も、休暇取ったら別邸に一人で向かって、野山を散策して薬草摘みに出かけているって執事のギルさんが言ってたでしょ?」

「うそ! 意外にオトメン?!」

「しかも、それを軟膏にしたり、調合して薬の形にして持ち歩いているって噂よ。戦場にもそれを持って行って部下に分け与えたとか?」


 ひそひそと始まったその話に、シャナはそっと逃げようと、後じさった。その時だった。

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