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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
7章:燃え上がる炎と記憶
64/146

7、

「どうして……」


 突然、しゃがれた声が割って入った。振り返ると、リチャードが朝焼けの光に憎悪の光を宿した瞳を照らし出されて、オーランドをにらんでいた。


「どうしてお前は!」


 いきなり激昂し始めたリチャードに、バートラムの近くにいた部下が取り押さえるが、とびかかってカレンを突き飛ばしてオーランドの胸ぐらをつかんだ。


「どうしてお前だけが、そんなに恵まれる! 大切な人を助けてもらえるんだ!」

「何言ってるかわからねえよ、くそ親父が! てめえが、火放ったのか畜生が!」


 ぱっといつものオーランドに代わって胸ぐらをつかんだリチャードを突き飛ばして、襟元をただし、突き飛ばされて顔をしかめているカレンに手を貸す。


「どういうことだ……?」

「お前さえ、お前さえいれば、娘は……!」


 怨嗟の声に、さすがにオーランドの眉も寄って、胡乱気にバートラムを見上げた。


 バートラムも意味がわからないと首を横に振るばかりで、セザールが眉を寄せた。


「……娘って、アリシアのこと?」


 カレンが細い声を上げた。その言葉に、オーランドが反応して、カレンを目で促す。


「わかるか? カレンちゃん」

「先の大戦で、退避中にケガして、亡くなったリチャードさんの娘さんよ。私と同い年で、同期だったけど」


 眉を寄せて意味がわからないと言いたげなカレンに、オーランドがそっとため息をつく。


「……取り押さえるのやめろ」


 オーランドがそういって、カレンから離れて、取り押さえられているリチャードの目の前に座り込んだ。


「あんた、俺が医者として働かないのが癪なんだな……?」


 それは、先ほど胸ぐらをつかんだ手を振り払う時に、リチャードから伝わってきた、感情だった。


「そうだ! お前は、お前は、医師という本分を忘れて、人を殺して……!」

「そうだな」


 なじる言葉を真っ向から肯定をしたオーランドは、そっとため息をついて両側からリチャードを抑えている屈強な部下たちに目で合図をする。うろたえたように彼らは、顔を見合わせて、ゆっくりと引いていく。


「それがどうした……? お前と俺に何が関係がある? 俺の大事なものを壊そうとして、何の意味がある?」


 つきたてるように問いを並べたオーランドは、まっすぐとリチャードの目を見る。怒りに燃えた青い瞳は、オーランドの濡れた土のような色の瞳を見据えている。


「うるさい!」


 リチャードが再びオーランドにとびかかって胸ぐらをつかんで、頬を殴った。すぐさま取り押さえようとするが、今度はバートラムが止めた。


「何か、考えがあるんだろう」


 のしかかられて、下敷きになったオーランドは馬乗りになっているリチャードをそれでもまっすぐ見ている。


「教えてくれ。わからないんだ」


 純粋に教えを乞う子供の目をするオーランドに、リチャードが胸ぐらをつかんだまま、ぶるぶると体を震わせた。


「そ、そんな目で、俺を見るな!」

「わからない。シャナを癒す時のあんたは普通の医者だったが、俺を見るときのあんたの目は暗くよどんでいる。俺に何らかの嫌な感情を抱いているのであれば、俺を殺せばよかっただろう。だが、なんで、お前は、カレンとシャナを巻き込んで、こんな火を放ったんだっ!」


 怒鳴るとも違う、悲痛な叫びに、カレンが見てられないと言いたげに目をつぶって顔を背けた。

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