7、
「どうして……」
突然、しゃがれた声が割って入った。振り返ると、リチャードが朝焼けの光に憎悪の光を宿した瞳を照らし出されて、オーランドをにらんでいた。
「どうしてお前は!」
いきなり激昂し始めたリチャードに、バートラムの近くにいた部下が取り押さえるが、とびかかってカレンを突き飛ばしてオーランドの胸ぐらをつかんだ。
「どうしてお前だけが、そんなに恵まれる! 大切な人を助けてもらえるんだ!」
「何言ってるかわからねえよ、くそ親父が! てめえが、火放ったのか畜生が!」
ぱっといつものオーランドに代わって胸ぐらをつかんだリチャードを突き飛ばして、襟元をただし、突き飛ばされて顔をしかめているカレンに手を貸す。
「どういうことだ……?」
「お前さえ、お前さえいれば、娘は……!」
怨嗟の声に、さすがにオーランドの眉も寄って、胡乱気にバートラムを見上げた。
バートラムも意味がわからないと首を横に振るばかりで、セザールが眉を寄せた。
「……娘って、アリシアのこと?」
カレンが細い声を上げた。その言葉に、オーランドが反応して、カレンを目で促す。
「わかるか? カレンちゃん」
「先の大戦で、退避中にケガして、亡くなったリチャードさんの娘さんよ。私と同い年で、同期だったけど」
眉を寄せて意味がわからないと言いたげなカレンに、オーランドがそっとため息をつく。
「……取り押さえるのやめろ」
オーランドがそういって、カレンから離れて、取り押さえられているリチャードの目の前に座り込んだ。
「あんた、俺が医者として働かないのが癪なんだな……?」
それは、先ほど胸ぐらをつかんだ手を振り払う時に、リチャードから伝わってきた、感情だった。
「そうだ! お前は、お前は、医師という本分を忘れて、人を殺して……!」
「そうだな」
なじる言葉を真っ向から肯定をしたオーランドは、そっとため息をついて両側からリチャードを抑えている屈強な部下たちに目で合図をする。うろたえたように彼らは、顔を見合わせて、ゆっくりと引いていく。
「それがどうした……? お前と俺に何が関係がある? 俺の大事なものを壊そうとして、何の意味がある?」
つきたてるように問いを並べたオーランドは、まっすぐとリチャードの目を見る。怒りに燃えた青い瞳は、オーランドの濡れた土のような色の瞳を見据えている。
「うるさい!」
リチャードが再びオーランドにとびかかって胸ぐらをつかんで、頬を殴った。すぐさま取り押さえようとするが、今度はバートラムが止めた。
「何か、考えがあるんだろう」
のしかかられて、下敷きになったオーランドは馬乗りになっているリチャードをそれでもまっすぐ見ている。
「教えてくれ。わからないんだ」
純粋に教えを乞う子供の目をするオーランドに、リチャードが胸ぐらをつかんだまま、ぶるぶると体を震わせた。
「そ、そんな目で、俺を見るな!」
「わからない。シャナを癒す時のあんたは普通の医者だったが、俺を見るときのあんたの目は暗くよどんでいる。俺に何らかの嫌な感情を抱いているのであれば、俺を殺せばよかっただろう。だが、なんで、お前は、カレンとシャナを巻き込んで、こんな火を放ったんだっ!」
怒鳴るとも違う、悲痛な叫びに、カレンが見てられないと言いたげに目をつぶって顔を背けた。




