5、
引き続き戦闘描写。
そして、それを見届けて、オーランドは、血で滑る手袋を脱ぎ棄てて、それでもぬめる手を服でぬぐい、滑る靴を脱いで靴下も脱ぎ捨てると、上着を脱ぎ剣を拭い、邪魔にならないところに捨てると、構え直す。
「さあ、来い!」
声を上げると同時に、お行儀よく待っていたらしい荒れくれ者の残りが一斉に襲い掛かってくる。それをたたき切って、ひるんだ男たちの足をしゃがみこんで薙ぐ。
ここにいる中で、害したいのはオーランドだけのようだ。
貧血でぼんやりする頭で、だまにならないように待機している男を見やって、そう判断して、オーランドはすっと目を細め、剣を握る手に力を籠めた。
本当の狙いがこの医院であれば、この間を縫って、医院の中に入り、虐殺の限りを尽くせばいいだろう。彼らはそれをしようとしない。
それぞれの獲物を持って、オーランドだけを狙ってくる男たちの合間を縫って、致命傷を避け最小限の動きで回避し、オーランドは純粋な殺戮に身を投げていた。
そして、とりあえず、医院の二階部分にカレンの帰りを待っていた患者を避難させたバートラムが戻ってきたころには あれ程いた荒れくれ者の姿はなく、すでに石畳は真っ赤に染まっていた。
オーランドの身にまとう軍服も血を吸って重たげに、裾から血がしたたり落ち、剣を持った手に伝っている。
その周りに倒れこむ死体、うめく重傷の襲撃者たち。
斜陽の光に照らし出されたオーランドは、ただ、時が止まったようにその場に立ち尽くしていた。
「お、オーランド……?」
殺気だったその雰囲気、空気にさすがにバートラムがひるみながら名を呼ぶと、その体は傾いで、そして、あおむけに倒れ始めた。
「オーランドっ!」
嫌な粘度を持った液体に足を取られながらも、オーランドが地面にたたきつけられる前に受け止めたバートラムは、支えるためにぐっと抱きかかえ、膝をつき、そして、目を見開いた。
受け止めた腕がすぐに血に濡れるほどオーランドは、血まみれだった。
「お前!」
すでに意識を失い、ぐったりと面を伏せたオーランドの顔色は、そこらに転がっているものと大して変りないものだ。
思わず息を確認して、かすかな呼吸を感じて安心したのもつかの間、バートラムは、途方に暮れた。
「どうすりゃ……」
うろたえている間にも、オーランドの体から力が抜けていく。それでも剣をまだ握っているのはまだ安心できる状況ではないと無意識でも思っているからだろうか。
さっとあたりを見回して、残党がいないことを確認して、立ち上がり頼まれた医院の中に入って、血みどろの服を脱がしていく。
剣を手放さないオーランドの袖を抜こうと悪戦苦闘していると何やら外が騒がしくなって、ドタバタとした足音が聞こえた。
「オーランドっ!」
叫ぶような、鋭い声に、はっとバートラムがオーランドの力の抜けた手に引っかかった剣を取り上げ、突きつけると、カレンが、目を見開いてともしびを持ったままのけぞった。
「あなたは……?」
「ここの持ち主。カレンです」
まるで誰かのように機嫌を悪くしたように目を細めて、のど元につきつけられた刃をうっとおしげに払って、ともしびを部屋の中に入れると、白衣に袖を通して、半身脱がされた状態のオーランドを、バートラムの手を借りて半裸にして診ていく。
「血を流しすぎている。……いけない」
青白いを通り越して、土気色のオーランドの顔色と、瞼の裏を確認したカレンがあわてて薬を取りに行く。
バートラムはまだ血を流し続けているオーランドの一番深いとみられる腕の傷を、脱がせたシャツで押さえた。
「初期対応はできるのね?」
「これでも怪我に一番近いところにいたわけだからな……」
止血をしていたバートラムに感心したように、カレンが髪を束ねてやってきた。
「患者たちは?」
「上に避難させた」
「ありがとう」
オーランドの傷を掴む手を離させて、カレンはその状態を確認する。そして、腰に下げた水筒を持って、勢いよく傷にかける。
「水か?」
「ええ。これだけ汚れていると洗わないと。いきなり消毒しても周りの汚染がひどかったら意味ないからね」
そういって、パッと身をひるがえして裏から水を張った大ダライを運んでくると、遠慮なく水をばしゃばしゃとかけて、傷を洗い、それでもまだ、いたるところから血のにじむ状態に眉を寄せた。




