5,
戦闘描写有
ぶった切りまくってます。
「斬るか薙ぐか、それともぶったたくか」
つぶやいて、オーランドは、男たちの初手を受け止め、茶色い瞳にギラリと強い光を宿した。
「死にたがりと見える」
つぶやき、そして、はじき、袈裟切りに剣を滑らせ、すり足で回転する。後ろには、男が迫っていた。
その男の首筋を迷いなく薙ぎ、絶命まで至らせると、そこには乱戦が始まっていた。
斬っては薙ぎ、突き飛ばしては、蹴り上げ、刃が掠めては、突き刺す。
黄昏の光の中、人通りの少ない裏の通りで、誰がそんな殺陣が繰り広げられていると思うだろうか。
赤く染まった光が、血に汚れた刃を浮き上がらせるように光らせる。
平和な夕飯の香りは、瞬く間に血錆のにおいに代わり、断末魔の声は、夕飯時の喧騒に消えていく。
さながら戦場に戻ったかのような、赤く濡れた石畳に、足を取られながら、ただ一心不乱にわが身を害そうとする者どもの命を刈り取るオーランドの姿は、人が見れば、悪鬼や羅刹のようだといわれるかもしれない。
もしくは。
彼の異名、首吊り子爵をもじって、首狩り伯爵と呼ぶものもいるかもしれない。
「オーランド!」
どれぐらいの時間が経っただろうか。
鋭い声に、オーランドと、男たちがびくりと体を震わせ間合いを取る。その間に馬に乗りこんで滑り込んできたのは、バートラムだった。左手に剣を握って男たちをけん制している。
「まった、ぶっ殺しまくって……」
「不可抗力だ……」
息を切らせながらそういった血染めの状態のオーランドに、バートラムは馬から降りて適当な男の列に突撃させて駆けさせると、顔をしかめた。
「ひでえありさまだ」
「一人でこれだけの数やってりゃ誰だってこうなる」
「これだけの数さばけるやつがまずいねえよ」
「まーな」
彼らの足元に転がっている躯はざっと二十は超えているだろう。
それだけの数が、オーランド一人に襲い掛かる異常事態もさることながら、それを一人で対処せしめて見せたオーランドの剣の腕、彼の腰に差さっていた片刃の剣の切れ味と、剛健さに、バートラムは青ざめていた。
「お前、こんなに強かったっけ?」
「……切り札は取っておくんだよ」
そういって、不敵に笑って見せたオーランドは、ふらりと足元をふらつかせて、剣にすがるようにしてしゃがみこんだ。
「オーランド!?」
「……さすがに血を流しすぎたようだ。……っ」
そのすきを見て、襲い掛かる男に、オーランドはぐっと立ち上がって左手で剣を突き刺した。
「……やらなきゃダメみたいだなあ……?」
「だから言ってるんだろうが」
切れた息でそういったオーランドにバートラムはざっと人数を確認して、本陣から慌てて飛び出した軍人たちが到着するまでの時間を考える。
「五分だ」
「五分で来るか?」
「ああ。その状態できついと思うが。……中は?」
「知らん。お前はそっちを見てもらいたい。人がいるようならば、上に避難するように」
「お前が行けよ」
「血みどろで行ってもダメだろうが」
シャツも、ズボンも頬も、至る所に赤をまとったオーランドはのどでうなりながらバートラムの前に立つ。
「行け」
「……」
短い言葉に、バートラムはポンと、オーランドの肩に手を置いて、そして、口の中で何言かつぶやいた。
セザールほどのものではないが、使えるといえるレベルの魔術はものにしているのだ。その中の、医療魔法と呼ばれるものを今、使った。その気配にオーランドがバートラムを目を動かすだけで見やった。
「これぐらいはできんだよ」
耳打ちするように言ったバートラムにオーランドはかすかに笑んで返す。
「……恩に着る」
「避難させ次第合流する」
「ああ」
息が整ったオーランドを確認して、バートラムが身をひるがえして、建物の中に入って行く。




