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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
4章:オーランドという男
39/146

4、

「どういうことでしょうか?」

「……オーランドが素手で触らない理由っつーのがね、たぶん、特殊魔力もちだからだ」

「特殊魔力?」

「ああ。魔力自体、この国では、少ない、あるいはないものとして扱われているのは知っているか?」

「……魔力という言葉自体初めて聞きました」

「……ああ、そうだよな。魔力っつーのは、簡単に言っちまえば、魔の力。人には見えない力で、何かを変えることのできる、具体例としては、癒しの力なんだがな……。医者は、ものを使って傷を癒すが、癒しの力を持つ人たちは、その魔力っていう便利な力を使って、傷に触れないで傷を癒すことができるんだ。そんな力に近いものを、おそらくオーランドは持っている」


 難しい顔をして、その言葉をゆっくり咀嚼しているのを見てとって、バートラムは言葉を一度区切った。


「大丈夫か?」

「……ええ。目には見えない、便利な力がオーランド様にはある、ということですね?」

「簡単に言っちまえばだけどな。特殊魔力っつーのは、俺も伝聞でしか聞いたことがないから何とも言えねえが、その中でもひときわ異彩な能力、性質を持つ魔力のことを言うんだ」


 ややこしそうな話になる、とシャナが身構えて、バートラムの言葉を待つ。


「普通の魔力っていう力は、水のようなもので、呪文や文字でいちいち型をつくって、望む形で押し出す必要があるんだ。でも、その特殊魔力っていうのは、型を作らなくても型を持っている。いちいち型をつくらなくても、型通りだったらそのまま押し出せばいいっていうもんなんだ。ちっとわかりにくいかもしれんがな」


 大いにうなずくシャナの様子に、バートラムは、まあこの前置きはいらんかもしれねえな、と笑った。


「……たとえば、俺が聞いたのは、魂を焼くほどの強い炎の魔術の使える術者、とか。まあ、そんな感じの力の仲間で、オーランドの生まれ持った魔力の形が、感情を癒したり、そういうことができるもんだと推測される。だから、君のそういう感情は癒された」

「……旦那様の魔力云々はいいとして、結局なにがいいたいんですか?」


 すかさずシャナが問うと、バートラムはかすかに苦笑して、そっと息を整えた。


「あいつの負担がかなり強いと思うんだ」

「負担?」

「ああ。……俺が、事故だったが、触っちまって俺のなんつーんだろう、そういう感情を渡してしまった時は、あいつ、かなりつらそうだった。そりゃあそうだよな。俺がもう十年も抱えていた感情を、あいつは一瞬で少しでも受け取ってしまったんだ。感情は年数をかけて昇華させていくもんだろ? それを数秒で、数分で受け取れてしまうんだ。相当の精神力がなければ、いや、精神力以上の感情を受け取ってしまえば、あいつは壊れてしまう」


 視線を下げて幾分落ちた調子で言われた言葉に、シャナは思わず身を乗り出してバートラムを見ていた。


「そ、それは、旦那様が……?」

「ああ。無事ではすまないっていう可能性もある。気が狂うこともあるんだろう。……だから、あいつは手袋を手放さないのかなと、思った」

「……手袋は、それから守るということですか?」

「すこしはましになるんじゃないか? 素手で触るより何か隔たりがあった方が、ほら、手の温みとかも感じにくくなるじゃないか。あれと同じかなと思った」

「ああ」

「だから、あいつの手袋外さないように見ててくれないかな。本人もつらいから必要以上に使わないようにしているんだろうが」

「……近い人には……?」

「外すと思う。あいつ自身、たぶん、もともと情が厚いやつだろうからなあ」


 困ったように笑ったバートラムに、シャナはふっと表情を緩めてうなずいた。


「まあ、気いつけてくれや。……あと、この話は内密に」

「……どうしてですか?」

「気恥ずかしいじゃねえか。こんなん」


 鼻の頭をこすって照れくさそうに笑うバートラムにシャナはほほ笑んで笑った。


「そうですね。わかりました」

「うん。じゃ、俺はここで」


 そういって出て行ったバートラムをベッドの上で見送って、シャナは一人になった部屋で深くため息をついて、そして、自分の頭に手を伸ばし、髪にくしゃりと握ってそっと目を伏せた。

あんまりチートっぽくないような気がする……

地味?

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