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「そういえば、旦那様は……?」
「わからない。あたしが着た時にはもう、軍部の呼び出しだってジャックが説明してくれたけれど、あんまり詳しいことを話したいようじゃなかったわ」
「……そう、ですか。軍部の呼び出し……?」
「さあ? 今も謹慎中らしいから、それ関連じゃないの? あいつのそういうのは知らないわ」
手当てをしながらそういったカレンにシャナはうつぶせになりながら、目を閉じた。
「何もなければいいんですけど……」
「そりゃ無理でしょ。あんなんなんだから。……お世話係、誰だっけ? バートラムさんだっけ? あの人いなかったら回らないでしょ。あの朴念仁」
「まーそりゃあそーだけど、俺よかしっかり仕事してるやつだぜ? カレンさん?」
扉の向こうから聞こえたその言葉に、驚いてシャナは起き上がって顔をしかめて、カレンはびくりと体を震わせた。
「まだ入っちゃだめかな?」
「え。ええ。今、青あざの手当てしているから待っていて」
まさか扉の向こうに当人がいるとは思わなかったカレンが気まずげに顔をしかめて、そして、手早くシャナの手当てを終わらせていく。
「どうぞ」
「急がせたようですまんね」
ガチャリと音を立てて扉は開かれて、入ってきたのはバートラムと、数人の部下だった。
「すまんね。ちょっと事情聴取をしたい。お医者さんは俺の部下たちと遊んでてくれ」
「なんであたしがあなたたちといなきゃならないのよ。とっとと帰るわ」
顔をしかめてそういったカレンは、また午後に来ると、シャナに言って、部屋から出て行った。ぱたんと扉が閉まって、部屋にはバートラムと一人の部下、そしてシャナだけになった。
「具合はどうだい? シャナちゃん」
以前、街で助けてもらったことを思い出しながらシャナは、ほっと息を吐いて笑った。後ろに控えている男は腕を組んで冷えた目でシャナを見ている。
「だいぶ良くなりました。旦那様やカレンさんのおかげですが……」
「そりゃよかった。まあ、顔色もよさそうで、なによりなにより」
からからと笑いながら、先ほどまでカレンが座っていた椅子にどかりと腰を下ろしたバートラムは、伸びた金色の前髪をうっとおしげに掻き揚げた。
「さて、事情聴取っつったけれどさ、いいかな? 気分悪くなるかもだけど」
「ええ。構いません。そうしないと、バートラム様のお仕事も進まないんじゃありませんか?」
「まーそりゃあそーだけどさ。んでも、あんまりこういう聴取はやりたくないもんでねえ。オーランドの部隊にゃ女性隊員が若干名いるからそっちに任せられるんだが、俺んところは完璧に野郎所帯でなあ。ま、完璧に男にしか興味ないやつ持ってきたから」
「隊長……」
「お? 女の子に興味あるのか?」
「性的嗜好は女性です。誤解を生むようなことを言わないでください」
かちりと硬い雰囲気を持った、長い銀髪を高く結わえた男は、形のいい眉をひそめてバートラムを見た。眼鏡が強い日の光に反射してきついイメージを持たせる。
「ま、頼むぜ、ロラン」
「……かしこまりました。では」
「ああ。終わったら声かけてくれ。ちょっとばかし、オーランドのことで君と話したい」
「……わかりました」
そういってバートラムが出て行って、ついに二人きりになってしまった。




