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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
1章:彼にとって日常とは
3/146

1、

「だりいな」


 執務室に入って二人分の紅茶を淹れていると、するりと扉が開いてバートラムが入ってきた。


「おう、イリアーナのお茶か?」

「嫌いか?」

「いんや? 香り高く、味もなかなかうまい。やっぱりお前はいい目をしている」


 その褒め言葉に鼻を鳴らしたオーランドは、遠慮なく応接セットに座ったバートラムの前にソーサーを置いて、紅茶を淹れる。


「お茶菓子も、これか。やるな」

「何がだ。とっとと要件話せ」

「……わかったよ」


 さすがに不機嫌を察したのか、飼い主に叱られた犬のようにしょげて見せたバートラムにオーランドはその向かいに座って自分のカップにお茶を注ぐ。


「まず、陛下が近々お前と話したいと」

「陛下が?」

「ああ。お前の有能さに目が行ったらしい」

「……お前な……」

「俺はほとんどなんも言ってねえぞ。セザールがすげえ褒めてたけど」

「……」


 顔を合わせたことのない優秀な政務官として名が通り、そして、同じように二つ名を持つ一人の男の名前に、オーランドは目を細めてため息をついた。


「まあ、何やらせてもそつなくできるからな。そういう人材が喉から手が出るほどほしいわけよ。この混乱期には」

「……もう混乱は終わっただろう」

「小康状態ってところだ。また、不穏なところが見えてきたからねえ」

「お前が、バカみたいにぶっ殺しまわってたのにか?」


 バートラムが、但し書きがつくほどに、それなりに後ろ暗いことをしていたことを知っているオーランドは、自分のカップを手に取って、ちらりとバートラムを見た。


「虫けらはいろんなところから湧いてくるんだよ。オーランド」

「殺虫剤が必要だな」

「ほんとだよ。なんかない?」


 肩をすくめたオーランドは、静かに紅茶をすすった。


「なあ、オーランド」

「なんだ?」

「お前、やっぱり」

「やだ」

「俺何も言ってないけど」

「どうせ、政務官として国に仕えないかと聞くつもりだったんだろう。何回も言っているが、俺が、この仕事にいるのは暇な割りに給料がいいからだ。それだけのため」

「俺はそう見えないけど?」

「なんだと?」

「死に場所を求めている」

「……っ!」


 さすがに言葉に詰まったオーランドに、バートラムは肩をすくめてお茶に手を伸ばす。


 そして、匂いを嗅いで、わきに放り捨てた。ぱりん、と薄いカップが割れて、敷かれていた絨毯に茶色いシミをつける。


「なんてな。……つーか、紅茶、毒入りでしょ?」

「……」


 青ざめているオーランドの顔色を見てバートラムはあきれたように笑った。


「平然と飲むなよ、こんなもん。それに、毒は茶葉じゃない。元から汲まれて置いてあった水に入っている。しかも、水に溶けやすい毒だ。つまりは」

「こんな幼稚なことを思いつく脳みそと水溶性であることを見れば、そこら辺の花壇に植わってる花の毒」

「おう、詳しいな」

「それぐらいわかって当然だろ……」

「医者呼ぶか?」

「自分で調合したほうが早い」


 そういって、ふらつきながらもオーランドは机の引き出しを開けて、小さな小分けケースを取り出して、適当に摘み上げて、どこかにしまってあったらしい乳鉢を取り出し、すりつぶし始めた。


「ほれ、水」


 バートラムが持ち歩いている水筒の水をもらって、調合した粉薬を飲み干して、ぐったりと体を椅子にもたれさせる。


「抜けるか?」

「しばらくすれば。……」


 ぐったりと目を閉じたオーランドに、バートラムは眉を寄せてちらりと水差しを見やった。


「こいつらはとっちめておく」

「いや……」

「いや、じゃねえよ。ヤッとく。つーか、お前、何回目だ?」

「最近はずっとだな」


 最近やけに顔色が悪いことが多いと指摘するバートラムの言葉にオーランドは目を閉じてもう一度ため息をついた。そして、バートラムは、何か文句を言おうとしたが、そのつらそうな様子にすぐにやめ、肩をすくめた。

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