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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
3章:旦那様とは
29/146

3、


「旦那様?」

「シャナ? 痛むか?」

「いいえ……あの」

「今、君の青あざの手当てをしてもらっている。女の医者だ。気にするな」

「……はい」


 目を閉じたままの、溶けて消えそうなかすかな声に、オーランドの表情が痛みを含んだものになる。


「なにか、食べたいものはあるか?」

「……え?」

「スープか何か、とにかくものを食べたほうがいい」


 こく、とうなずいてシャナはオーランドを見上げるように顔を動かす。


「今日は甘えなさい。何も悪いことはない」


 そっとシャナの茶色い髪をなぜて処置が終わるまで、そのまま、抱き起した状態でいた。


 青あざに油紙を貼る最中、カレンがオーランドを盗み見るが、特に変わった表情は見せず、ただ、いつものような淡々とした表情を浮かべている。


「シャナちゃん。処置は終わったよ。安静にしてね」


 やがて、処置が終わりカレンがやわらかく言うと、シャナがかすれた声でありがとうございましたと、つぶやいた。その声に、カレンの目がいたましそうに伏せられた。


「寝かせるぞ」


 オーランドはそういって、シャナの体をゆっくりと横たえさせて体を離す。そして、やわらかい乾したてのシーツをかけて、脈と体温を確認するように首筋に手を当てた。


「カレン」

「なに?」

「……すまなかったな。忙しいところ」

「……あんたがそんなこと言うなんてね」


 鼻を鳴らしてそういったカレンに、オーランドは小さくため息をついて目を閉じた。


「俺も言うべき時ぐらいはわかる。細やかな気遣い。ありがとう。そちらの町医者の先生も、ありがとうな。後日、謝礼をいくばくか包む。よければそこのジャックに住所を教えてもらいたい」

「いえ、礼には及びません」


 オーランドがそういうと言葉少なに町医者は出ていき、カレンだけが残った。


「どうした?」

「……しばらくここにいる」


 当然彼とともに帰ると思っていたオーランドが、カレンを見降ろして首を傾げる。ぽつ、とつぶやかれた言葉にオーランドは意外そうにカレンを見た。


「あんたがこの子の世話できるなんて思えないし。午後の診療は今日はもともとないのよ。それにしばらく医院は彼に任せた」

「……いい人か?」

「ええ」


 うなずくカレンに、オーランドはため息をついた。


「ここを頼む」

「ええ」


 オーランドは部屋を出ようと、ベッドのそばから扉のほうへ歩き出した。だが、その膝がいきなりガクンと崩れしたたか床に膝を打ち付ける音とともに、オーランド自身が倒れ伏した。


「オーランド!」


 驚いたカレンがそばによると、青白いを通り越して土気色の顔色をしたオーランドが、脂汗をにじませながら起き上がり、床に座りこんで重くため息をついた。


「どうしたの?」

「……いや……」


 気まずげに伏せられる目を見てカレンは、はっと首筋に手を伸ばして触れた。


「……あんたバカじゃないの!」

「うるせーな」


 そっぽを向く幼馴染の姿に、カレンはため息をついて、その体を支える。大きな物音に気付いてか、ジャックが中に入ってきて、カレンに支えられて座っているオーランドという不思議な光景に出くわして興味深そうに見下ろした。

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