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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
3章:旦那様とは
27/146

3、

 そして、屋敷に顔を出すと、けがをした執事やメイドに声をかけ、しばらくシャナとジャックを連れ別邸で過ごす旨を伝え、その間にけがを癒すようにと告げ、細かな事務的な報告を受けて、別邸に戻る。


 別邸に戻ると、すぐにジャックが寄ってきて、小さなメッセージカードをオーランドに渡した。ユーカリの香りがかすかにしみ込んだカードには、昼に行く。とだけ、短い言葉がつづられている。


 そっけない言葉に、オーランドはジャックに目を移した。


「カレン様が、お昼頃に来ると」

「……そうか。あいつ暇じゃないはずなんだがな」


 シャナの手当てのために、真夜中にもかかわらず呼び出して手伝ってくれた一人の医者のメッセージカードだ。二人でやり取りしているとき、こうやって名を書かずともわかるようにと、言い始めたのはどちらだっただろうか。


 伯爵家の人間を診る以外の時は、町で引っ張りだこな気立てのいい美人女医として働いている幼馴染のことをポツリとつぶやくと、ジャックも困ったように肩をすくめた。


「……今回は女性ということで、診なきゃならないでしょと、仰せられていました」


 前線で働く幼馴染らしい言葉にオーランドがふと口元に小さく苦い笑みをのせた。


「心強いな。シャナは?」

「薬が効いているのか眠っています」

「そうか。……休息が一番の薬だ。昼か……」

「旦那様も少しお休みになられては?」

「……そうだな。そうすることにしよう」


 ジャックの言葉にうなずいてオーランドは、用意されたお茶を片手に、ベッドと机しか置いていない私室に入って、サイドテーブルにお茶のサーバーを置いて、ベッドに横たわった。


「……」


 強い日の光が埃一つなく磨き上げられた部屋を照らす。


 部屋を焼くような朝日に目を細め、オーランドはすぐに起き上がってカーテンを閉めて、日に背を向ける。


「勘弁してもらいたいものだ」


 そうつぶやき、オーランドは、つかの間の休息に体を預けたのだった。



「オーランド!」


 騒々しい声に、ふっと目を開くと、ベッドの脇に、白衣を着た女性が仁王立ちをしていた。


「もう昼か?」

「謹慎だからって何寝ッこけてるのよバカ!」


 ベッドを蹴り上げんばかりに言う女性、オーランドの幼馴染であるカレンは、琥珀の瞳にかすかな苛立ちを乗せていた。走ってきたようで白衣の裾が乱れて汚れている。


「寝っこけてたわけじゃねえが……?」

「うるさい。で、シャナちゃんは?」

「知らん。ジャックに聞け」

「あんたの患者でしょうが」

「朝っぱらからうるせーぞ。空き時間に休んでて何が悪い」


 ため息を深くついたオーランドは、立ち上がって緩めていた服を直し、部屋から出る。


「……」


 部屋の外には、一人の男性が、往診鞄を二つ持って立っていた。くしゃくしゃと汚れた白衣を身にまとい、柔和な雰囲気を醸しだしている白髪交じりの黒髪がかすかに乱れている。カレンに付き合わされたようでくたびれきっているおっさんがそこにいた。


「これは初めまして。どちら様で?」


 そつなく挨拶をするオーランドにジャックが咳払いをして、耳打ちをする。


「カレン様が連れてきた町医者の方です」

「……カレンだけじゃないのか」

「貴方様が、オーランド様ですか?」

「いかにも。失礼な応答をしてすまん。カレンの助手ということで?」

「ええ。自分は、町医者なれども、裏のほうの女性もよく見ているのでね。少しは役立つのではないかと思いまして」

「……そうか。心強いな」


 心にも思っていなさそうなことをすらすらとしゃべるオーランドにさすがのジャックも袖を引っ張った。それを振り払って、オーランドは町医者に背中を向けて、カレンを振り返った。


「カレン」

「なによ」

「患者はこっちだ」


 後は話すことはないといわんばかりにすぐに話を切り上げてオーランドは、町医者と名乗る50代過ぎの男とカレンをシャナが眠る部屋につれた。

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