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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
3章:旦那様とは
26/146

3、

「それでバカはどうだ?」

「ん? ああ、今やってるよ」

「なんかうたったか?」

「いんや。個人の犯行だって言ってたけどねえ?」

「影もどきを使ってることから、どこかの手引きだな。……俺に恨みがあるような高位の貴族かその関係者」

「順当に考えれば、伯爵関連で何かお前がやらかしたかって聞きたいんだけど、お前、伯爵じゃねえし、子爵だしな。……廃嫡は?」

「子爵でもねえし、廃嫡はまだ、だな。でも、叔父上には子供いないし、継母に至っては、父が生前にあれの連れ子について廃嫡っていうか、嫡出子でないと証明書を出してくれているからな」

「順位を変えられただけ?」


 間髪入れずに始まった会話にするりと投げられたその疑問。それに肩をすくめて困ったように視線を逸らしたオーランドは、手の中にあるカップに視線を落とした。


「……なんというかなあ。俺も軍学校に行っている間の出来事だからなんとなくでしか把握できていないんだが、何か変な証明書を出してくれたおかげで、俺の継承順位がなくなる、事実上廃嫡の状態になりかけて、その間に親父が死にそうになって、んで、そのまま親父が死んだら、バカに、連れ子のほうに伯爵が回るところだったんだ」

「……単純に考えて、そこらへんが臭くねえか?」

「それはまたあとでだ。んで、それを見ていた爺さん、いや、うちのお抱えの医者が何とか親父をどうにかして、生きながらえさせて、連れ子に回らないように叔父貴のほうに順位が回るように、俺の継承順位については知らんが、仕向けたんだ」

「……」


 目を細めて眉を寄せたバートラムに、オーランドは肩をすくめて見せてふっと窓の外に目を向けた。


 出勤してくる軍人たちがまばらに門をくぐる様が見えた。東から上る陽を背に受けて、歩く兵士の姿もちらほら見える。誰もが皆、馬を持っているわけではないのだ。


 そんな風景からちらりと目に移し、オーランドは言葉をつづけた。


「んで、叔父貴が今もやってて、非嫡出児の連れ子のほうは、酒と女におぼれて遊んで。だ」

「……んー。連れ子のほうは興味ない感じ?」

「どうだか。俺もそこまで話したことはないが、遊んでる方が楽しい、金があるならほしい。でも働きたくない、道楽バカ息子そのままだ」

「……お前は金づる?」

「ああ。まあ、ヤクやってるみたいで、俺が金づるだと考えるほどの頭が残っているかは、疑問だがな」

「洗脳も可能と」

「洗脳を受けてたとしても、ここまでややこしいことはしてこない。どちらも良くも悪くもただのバカ、だからな」


 そういったオーランドにバートラムは低くうなった。


「お前に恨みがあってなおかつ、裏で手を回してるやつか。……よくわからん。お前には何があるんだ?」

「何もねえよ。将軍という地位ぐらいだ。一応伯爵の長男という肩書はあるが、それでも、今の伯爵は叔父貴だしな。……叔父貴も、まあ、いつ俺が伯爵を奪いに来るかわからんでおびえている節があるような気もするんだが、将軍だけで忙しいと言ってあるんだが……。婆がやったとしても果たしてここまで手の込んだことをするか。それとも、今回の件に関しては、ババアが頂点で、俺におとなしく金を出すように脅すように言って、下っ端が暴走したっていうことも考えられるがな。まあ、身代金の要求がないから……どうだろうか。シャナで楽しんだ後売っぱらって金にして、そのあと、メイドが失踪した疑惑の将軍。ってことにするつもりだったんだろうか……」

「それはそれで金になるの?」

「さあ? ただ、それぐらいバカっぽい婆だからな」


 肩をすくめてそういったオーランドは深くため息をついた。


「よくわからん」

「……大変だな」

「全くだ。誰か、あのパラサイト駆除してくれ」


 心底うんざりしたように言うオーランドにバートラムが軽く笑い声を立てた。


「晩飯どうする?」

「このヤマ終わってからだろ。そこで酒もだ。やけ酒してやる」

「おう、朝まで付き合うぜ」


 その言葉にこぶしを突き合わせた二人は目配せをしてうなずきあって、そして、オーランドは立ち上がって、部屋を出た。


「あんまり根詰めるなよ」

「お前こそな」


 そう言葉を交わしあい、わかれる。


 オーランドは執務室により、出勤してきた部下に、謹慎を受けた旨と、その間の執務を頼み、はずせないものだけ、屋敷に持ってくるようにと指示を出して帰った。

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