2、
それを見下ろしてオーランドはそっとため息をついて、剣を床につきたててあたりを見回した。
「バートラム」
「あいよー」
物陰から出てきたのは、がちがちに装備をした一隊。バートラムの隊だった。私的な事情で、自分の隊を動かすことはできない。その規定に引っかからないためだった。
後から追いかけてきたバートラムが、修練のために集まっていた一隊に声をかけて急いでこちらに向かわせたのだ。
「拘束と尋問を頼む」
「わかった。お前は……?」
「この子の処置をしたら一度そちらに。……この状態じゃ、医者に見せるのもかわいそうだ」
「だが……」
「一応医者並のことはできるつもりだ。心配無用」
震えているシャナの目隠しをほどき、縄を断ち切りながらそういって、オーランドは着ていた上着を何のためらいもなしにシャナの肩に羽織らせる。
「だ、旦那様!」
その早業にか、それとも、服が汚れてしまうといいたいのか、声を上げたシャナに、服の前を止めてやったオーランドは、目をそらしているバートラムの隊員を見やり、そして、ため息をついた。
「気にするな。これから馬に乗せる」
それだけ言って、オーランドはシャナを抱き上げその場を後にして、外につないでおいた馬に乗りこむと、馬を走らせる。
屋敷からそう遠くない場所にシャナは連れ去られていたらしく、シャナには見覚えのある道が近くなって、そして、通り過ぎていく。
「どこに……?」
明らかに屋敷に行くのとは違う道に入って行くのを見て、恐る恐る尋ねたシャナに、オーランドは手綱を捌きながら道をまっすぐ見ていた。
「俺の別邸だ。普段、あまり人を立ち入らせないのでな。お前の処置や静養にもってこいだ」
「わ、私は……!」
「こんなことがあったんだ。……それに、今の状態をほかの人に見せられるか?」
もっともなその言葉に詰まっていると、オーランドはそれ以上何も言わずに前をまっすぐ見ていた。
シャナが見上げた、いつもは気難しそうな表情しか浮かべていない端正な顔は、いつもとはどこか違う、怒っているような、そんな表情を浮かべている。
「しばらくかかる」
「は、はい……」
うなずいたシャナは落ち着かなげに体をこわばらせて、馬に揺られていた。それをなだめるように、オーランドが肩を抱いた。
「寄りかかりなさい」
そっとオーランドが引き寄せると、シャナは、はっと背筋を伸ばしたが、伝わるぬくもりに気が抜けたのか、いつの間にか、くったりとオーランドの胸に頭を預けて意識を失っていた。




