2、
軽い戦闘描写です
ふっと一瞬だけ静まり返る倉庫の中。
物音も立てずに動いたのはオーランドだった。
くるりと刃を返して柄で、彼のトレードマークのような出っ歯に柄頭を思い切りたたきつけて、思わず後ろにのけ反った彼の腹に膝を突きこむ。
「ぐへっ」
「無駄口たたけるぐらいおしゃべりならば、牢の中でも謳ってくれるな?」
無様に後ろに倒れ伏した男の肩口に剣を突きさしたオーランドは、ふと後ろが異様な雰囲気に包まれていることに気付いて振り返った。
「余裕ぶっこいている暇ねえじゃねえか? オーランド将軍?」
「……」
いつの間にか、彼らに兄者と呼ばれていた、椅子に座り見物していた男は立ち上がり、シャナを抱き上げ、そして首にナイフを突きつけていた。
「やわっけえ良い体してんじゃねえか。メイドさんよ?」
ドロドロに汚れたその体をまさぐって、男はにやっと、無造作に伸びた黒髪に隠れた釣り目を細める。どこか蛇のような雰囲気を持つ男は、オーランドをまっすぐ見て口を開いた。
「弟を離しな、将軍さんよ」
「……できないな」
「じゃあ、この女、どうなってもいいんだな」
「そうすれば迷わずこいつをいたぶって殺してやろう」
「旦那様!」
「……ほら、命乞いしてるぜ? 嬢ちゃん」
「私ごとお切りください」
穢されてもなお凛としているその声に、オーランドの表情がわずかに動いた。
「黙れ、この……」
「あなたに拾っていただけなければとうに無くなっていたこの命。邪魔であればお払いください」
本気でそういっているとしか聞こえないその声に、オーランドの表情の中にどこか憮然としたものが混じる。
「シャナ」
低い声にシャナはぴたりと黙った。目隠しされているものの見えているようにオーランドにひたりと顔を向けている。
「すこし、息を止めていなさい」
その言葉に、いわれたとおりに深く吸い込んで息を止めたシャナを見て、すっと目を細めたオーランドはちらりとあたりに目を向けて、男に刺したままの剣を切っ先で断ち切るように横にずらして肩の腱を断つ。
出っ歯の男が鈍い悲鳴を上げるが、それはあまり聞こえていなかったらしい。
ゆるやかな動きでぴたりとシャナの首にナイフを突きつけている腕に軌道を合わせた。
「何をやっても無駄だ」
「……果たしてそうかな」
そういったオーランドはまるで流水のごとく柔らかな動きで剣を鞘にしまって一歩足を踏み出した。
その瞬間、オーランドの姿は消えたように見えた。
あ、とも言わせない間に男の目の前に現れ、そして鞘鳴りの音が聞こえる。
実際は、二歩で5m以上ある距離を詰め、移動の速さと、抜きざまの剣の速さを合わせた剣術で、シャナを盾にしている男をとらえただけだった。
たった、それだけ。
しかし、起こったことはそれだけとは言い難いものだった。
「……え?」
男自身、何が起こったのかがわからなかったのだろう。遅れて鈍い音を立てて落ちた自分の腕と、軽くなった肩の先を交互に見やって目を見開いていた。
そのまま勢いを殺さずに薙ぎ払っていれば、男の胸から下と上が両断されていただろう。だが、シャナがいるためか、腕一本をバッサリと切り落とし、腋に触れるか否かのところで刃は止まっていた。
「……」
刃を持っていない左手でシャナの腕を掴み引いて、片腕で抱くようにすると、オーランドはそのまま後ろに下がった。そして、男は切られた付け根の部分を押さえ、がくりと膝を落として横倒しに倒れ伏す。




