2、
そして、夕暮れ、私室にこもって持って帰った報告書を確認していたオーランドの元に、執事が訪ねてきた。
「入れ」
「失礼します」
執事長の彼、ギルが頭を下げて入ってきて、買い出しに出かけた執事とメイドたちが帰ってこないのだと報告を上げた。
「……いつから出ている?」
長引いているにせよ、もうじき日暮れのこの時間帯まで買い出しに出かけていることはまず考えられない。
オーランドは執事長の詳細な報告を聞きながら、バートラムからもたらされた不安要素を口にする。
「逆、恨みですか?」
「ああ。その線が濃厚だと俺は考える。でなければ、執事なんてパクリはしないだろう。屋敷の構造の情報がほしいのか、それとも金目のものがどこにしまってあるか。……恋人がいるかどうか、そんなもんだろう」
オーランドがちらりと外を見やると、一騎の騎馬が駆け込んでくるのが見えた。
「出迎えを」
「は」
一礼して部屋の外に出て出迎えに行ったギルを見やりながら、オーランドは椅子に体を預けて深くため息をついた。
騎馬で駆けてきたのはバートラムだった。
相当焦った顔をして、外からオーランドの耳にも聞こえるぐらいの声で何かを話している。
「旦那様!」
「どうした?」
「買い出しに出かけていた執事たちが襲撃にあったようで、今、医者のところに」
「無事か?」
「……」
報告に来たギルを押しのけて入ってきたのは、バートラムだった。相当急いできたのだろう。息が切れて、汗をにじませた顔でオーランドを見ていた。
「メイドの一人がさらわれた。それ以外は、打撲傷などの大事ない怪我だ」
「メイドの一人?」
「シャナ、という子らしいが、区別つくか」
その言葉に、オーランドは思わず立ち上がっていた。
「旦那様……?」
「……」
見たことのないその姿にギルは驚いたように声を上げていた。普段、眉を寄せて難しそうな顔をしている、柄の悪い端正な顔が、今や、年相応の青年の、驚いて、呆然としている表情を浮かべていたのだ。
「その顔は区別つくんだな。俺の隊とお前の隊を合わせて今、俺が指揮をとって調べている。だが、雑踏の中の犯行で思うように成果が得られていない」
つづけたバートラムの言葉に、オーランドは深くため息をついてすぐに表情を戻してうなずいた。
「そうか。明朝からの捜索に俺も加わる。俺の屋敷のメイドだ。本来であれば、私的に隊を動かすのはあれだが……」
「俺が動かしてるから規定には引っかからんだろう。まあ、どうにかするさ」
「どうにかする?」
「お前にも話せないことがあるように、俺にもいろいろあるんだよ」
疲れたように笑うバートラムにオーランドは静かにため息をついてうなずいた。
「わかった。お前の持つ権力に頼むことにする」
「黙って頼まれろ」
そういったバートラムはうなずき返して、オーランドの肩をポンとたたいて笑い、そして、オーランドの屋敷を後にした。
その後、翌日オーランドが指揮を執るからと、その日のうちにオーランドの隊を解散させたバートラムは自分の隊はそのままに捜索に当たらせたのだった。