2、
「オーランド様」
影から呼び止める声。その声に立ち止り、影を見る。足元だけが存在を示すように見えた。
「どうだ?」
「見たことありません」
「新しく入ったものはいたか?」
「それは、二、三名。しかし、叔父上であらせられる……」
「直接はとっていないか。叔父上があの婆の世話役として押し付けたのはいるか?」
「いえ。完全にはなれのほうで……」
「野放しか」
「そうとも言えます」
口早の報告に目を閉じてオーランドは次の一手を考える。
「ドラ息子のほうはどうだ?」
「相変わらず薬と女におぼれているようです」
「さすがに俺を葬る頭はないか……」
「金づるがなくなるから困る、という考えかもしれません。今懐をまさぐっているところです」
「詳しいことはどうでもいい。情報を頼む」
「御意に」
さっと影に潜む人影が消えて、廊下に人の気配は、遠くを歩く部下の気配しかなかった。
「……」
体に入っていた力を抜いて、ぐらりと揺れる体を、壁に手をついて支える。
「……っち」
まだままならない体に舌打ちをして、執務室へ戻り、片づけるべき仕事を手早く片付け、応接セットのソファーに寝転ぶ。
「オーランド、起きてるかー!」
バートラムの声に起き上がって扉を開けると、バートラムが飛び込んで、そして後ろを気にしてすぐに扉を閉めた。
「どうした?」
「速報だ。お前のいう出っ歯兄弟の話をしただろう?」
「ああ」
「行方をくらませた。昨日の面会に来ずに、住居に行っても空。逃げられた」
「それがどうした?」
「ほれ、これ」
バートラムが持ってきた紙には、オーランドに対する恨みつらみが書かれ、そして、呪いの文句が血文字でつづられていた。バートラムの知り合い曰く通常であれば、この術式は発動してもおかしくないという。
それを聞きながらオーランドは、血文字の文句を見てそこに書かれている、体が腐り落ちるなどということは全くないぞと、バートラムを見た。
「下らねえ」
「下らねえってな、お前これ……」
立派な呪術の態をなしているその血文字に青ざめているバートラムに対して、オーランドはあきれたようにその紙を眺め、バートラムに突っ返した。
「この世界の人間じゃねえ奴にこの世界の呪術、法則が適用される訳ねえだろう、バカくせえ。燃やしとけ、そんなもん。……俺にゃ効かねえよ」
「どういうことだそれ」
「どうでもいいだろ」
「よくねえよ。このせ」
オーランドはその言葉に指をバートラムの目に指を突き入れようとした。のけぞったバートラムが壁に頭と腰をぶつけ、文句を言おうとオーランドをにらんだ。