とある執事の回想
試すようにオーランドを見ると、オーランドの表情には怯えなどなくどうしたものか、という表情を浮かべている。本当に死が怖くないのか、それともただの強がりか。
いずれにせよ、十三の子供が浮かべる表情には程遠い。
「帰るのか?」
「いいや。こんだけ行方をくらませてりゃ、どっかでのたれ死んだものだと思われてる。お前に、最低限の護身術を教えたら、どっかに行くさ。まだ生きてる母親と、妹と弟に十分な金もある。それを置いてどっかで死ねばいい」
「死にたがりを助けた覚えはないんだがな」
「そりゃあ、悪かったな」
当て擦りのように言ったオーランドにジャックは肩をすくめて笑う。
「行くところないなら、俺のところに来ないか?」
ふっと一息を置いてから、真面目な面持ちでオーランドが言った。ジャックは鼻で笑ってそっぽを向いた。そんなジャックにオーランドは毛布を取っぱらって膝をついて体を起こすとジャックの胸ぐらをつかんで引き寄せた。
「今更表に行けるなんざ思ってねえよ」
その手を振り払ってそういうジャックに、オーランドは、やけにまっすぐとした目を、投げてよこすのだった。
「連れてってやるよ。引きずりだしてやるよ。死んでなければ俺が……ァ」
言いかけてオーランドの言葉が突然ブレて、目を見開いた表情を浮かべたオーランドが前のめりになる。
「おい?」
そのままジャックの胸に飛び込むように倒れこんできたオーランドにジャックが驚いて、細い体を受け止め、その背中の真ん中に生えたナイフの柄に息を呑む。遅れて聞こえたガラスが割れる音に、外からあわてたような足音が聞こえた。
「おい! オーランド!」
「……ぐっ」
血を霧のように吐いて、それからぐったりと動かなくなったオーランドに、ジャックは割れたガラスの先を見据えて舌打ちをする。
「何事だ!」
「クソガキに医療魔術かけろ! このままじゃ死ぬ!」
うつぶせになったオーランドの背中からナイフを一息に抜き放って、手を当てたジャックは顔をしかめて、入ってきた白髪の執事を一瞥するとうなずいて、割れた窓から外へ飛び出した。
そして、窓の外の茂みに潜んでいた暗殺者を、しばらく追いかけて、一瞬開けた森の木々の隙間を縫って、暗殺者の背をめがけてナイフを投げ、その背中に突き立てた。
見事に命中し、前のめりに倒れ、木に激突して止まった暗殺者の体から、ナイフを抜くと、血しぶきを浴びないように立ち回り首を一刀両断する。
「……」
鮮やかな切り口を見やり、ジャックは髪を持ち手に一瞬でその場から消えた。