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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
とある執事の回想
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とある執事の回想

 そして、オーランドが、目を覚ましたのは、翌日の夕暮れのことだった。


 ジャックが寝ていたはずのベッドに丸くなるように寝ていたオーランドが、自分がされたことを思い出して鋭く舌打ちをして体を起こした。

 くらり、とめまいを起こした視界に歯を食いしばって体勢を整えてこわばった表情であたりを見回す。


 そして、今危険が迫っていないことを確認ができて、肩に入った力を抜いたオーランドが、痛む喉に手を当てて目を細め、咳払いをしていると、執事服のジャックが中に入ってきた。


「てめえ」

「そのまま死ねなくて残念だったな。クソガキ」


 鼻を鳴らしてそういったジャックにオーランドは舌打ちをして、パッとベッドから抜けて構えようとしたが、がくん、と膝から崩れ落ちた。

 ままならない体に驚いた顔をしたオーランドを片手で受け止めてジャックはかすかに眉を寄せてそっとため息をついた。


「俺の知らないところで何やってんのかわからないが、お前、ひどい熱出してるぞ。外の爺さんには話を通しておいた。今日も暮れるまで待っているということだが、ここにいたほうがいいんじゃないか」

「……っち」

「ここにいる間は、お前に降り注ぐ刺客は全員ぶっ殺しといてやるから、体休めてろ。ガキの間に体こじらせるのはまずい」

「いわれなくともわかってる」

「じゃあ。おとなしく寝てな。クソガキ」


 ひょい、と抱き上げられてベッドに戻されたオーランドが悔しそうに歯噛みするのに、ジャックはただ、静かに見下ろしていた。


「ガキはおとなしく守られてりゃいいんだ。それを苦しく思うこたあねえ」


 そう顔を覗き込まれていったジャックが椅子を持って、オーランドの近くに座る。


「守ってくれる人間なんて、ほとんどいなかった」


 ベッドに両足を伸ばした状態で座ってうつむいてつぶやいたオーランドに、ジャックは、その表情が堪えるようなものであることに気付いて、近くにおいてあった毛布をオーランドの足にかけてやる。


「だから、力を求めているんだろう。その結果がこのざまだ」


 ため息交じりにそういってジャックは荒れた自分の手を見下ろした。オーランドによって手当てされてようやくふさがったが、ひび割れやささくれ、切り傷、擦り傷、あらゆる傷で痕だらけだった。


「その結果?」

「おっさんの昔話だ。お前みたいに貴族様じゃあなかった。……そこらのスラム街の出身だがな、チンピラに襲われるようなことを親父がやらかしていた。一番上の子だった俺は、そう思ってた」

「そう?」

「とっとと大人になって、大人の体を殺す技術身に付けて家族、お袋と妹と弟を守りたいと」

「……」


 皮肉るような笑みを浮かべてジャックがそういうのに、オーランドは何とも言えない顔をして黙り込んだ。


「いざ身に付けて帰ったら、遅くてな。母親と妹は凌辱の限りを尽くされてズタボロ。ちびっこい弟は隅っこで泣きながら漏らして震えていて、父親だけが笑っていた。……あのクズは、母親と妹を売って金を手に入れたんだ」

「……その父親には何かしたのか?」

「ああ。もちろんだ。もう家に戻らない覚悟で父親をボコって母親と妹をヤったクソどものところに案内してもらって殺してから、そいつらも殺った」


 手の中にナイフがあるように握ってすっと何とも言えないようなうっとりとしたような顔をしたジャックが、うつむいて笑みを深めた。


「それから家に戻らないで、裏課業して、そうしてたら、国のに目をつけられてな。暗殺者として雇われた」

「……王国の影。か」

「かろうじて任務には成功したが、手痛いしっぺ返しを受けてな。お前に救われた」

「厄介なものを拾ってしまったようだな。俺は」

「そうだな。本来ならば、お前を殺して闇に帰らねばならん」

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