終。
ただ、お覚悟を、がかきたいだけだった←
それまでに、セザールは正式な書類を一式そろえて、帰りの見送りの際、オーランドに手渡した。
「この公私混同野郎!」
「僕にこんなことをやらせたことを後悔することですね」
「じゃあ、しばらく執務室にこもりきりにしようか。なあ。バートラム」
「そーですね、陛下。今ちょうどいい奴がありますよ」
「ははっ、いいね」
笑う三人に、顔を白くさせるセザール。シャナは、これに乗るしかないと、ニヤッと笑った。
「ということで、お仕事、頑張ってください、ね? セザール様?」
飛びきりの声にセザールの顔が引きつって、がっくりとうなだれた。
「わかりましたよ。貴女がそういうならば」
「嫁の力つええ」
「さすが母上の娘だな……」
「ですが……」
「ですが?」
「すべてが終わった暁には、貴女のすべてを奪わせていただきます」
シャナの前に膝をついたセザールがシャナの手を取って指先に口づける。そこに光るのはおそろいのリング。
「お覚悟を」
低い声を作ってそういってシャナを見上げたセザールに、シャナはひくっと肩を震わせて、一気に顔を真っ赤にさせてオーランドの背中に隠れた。
「はははっ」
「おーおー。あっつあつだ」
「こればかりはセザールが一枚上手だったな!」
はやし立てる声にシャナは一発オーランドの背中に入れてから馬車に飛び乗った。
「まったく……」
「とんだじゃじゃ馬だが、よろしく頼む」
「こちらこそ、こんな不肖のお、いやいや兄だが」
明らかに不肖の弟といいかけて苦笑をしたレーナートにセザールが驚いたようにレーナートを見た。その顔を見てレーナートはかみしめるような苦笑を浮かべていた。
「レーナート?」
「未来へ歩むお前に、俺にできることさ」
肩をそびやかせてそういうと、そろそろ、次のスケジュールがあると城に帰って行った。
「何かっこつけてるんだか」
「……はあ、全くです。昔からああいう人でしたが」
「ん?」
「こっちの話です。……乗っ取られずに思い出しているんですね。あの様子だと」
安心したようにふっと笑ったセザールにオーランドはひとまず納得した顔をした。
「昔の知り合いか?」
「ええ。とてもなじみ深い知り合いです」
俺だけ仲間外れか、と乾いた声でつぶやいたバートラムにオーランドはちらりと遠くを見やって笑った。
「おい、あれ、捕獲部隊じゃないか?」
「あ? え? ああっ!」
「さて、どっちの味方してやりましょうか」
「どっちもどっちだな。俺は気づかなかったふりして逃げる」
「じゃあ、僕もそれを見送ってですね」
「俺はー!」
「自分でどうにかしな。じゃ、後日返事を」
「ええ。お待ちしております」
そういって、オーランドが馬車に乗りこむのを見送って、また、バートラムが騒がしく城へ逃げるのを見送って、セザールは護衛の数人を伴ってゆっくりと散歩がてら城の庭園を巡ってから私室へ帰るのだった。
帰宅途中、馬車内の一コマ
「シャナ、頭はやめとけ。マジで逝っちまう」
「じゃあ、どこがいいですか?」
「そうだな、背中にかかと落としぐらいでちょうどいいだろう」
「背中ですね」
「ああ。背中の上のほうを狙って、心臓の裏側はまずい。右肺のあたりを」
「わかりましたわ。今度、そこにします」
「ああ。それでいい。頭やられてあれ以上アレになられてもかなわない」
「……そうですね」
「それと回し蹴りは着地が難しいからここぞという時にしか使うな。足首折ってセザールと街歩きできなくなるのイヤだろ」
「はい。わかりました、お兄様!」