7,
その後、目を覚ましたセザールはオーランドに、彼女の体術の訓練をやめるように必死に頼み込んだという。
そして、オーランドの領域である軍舎の医務室に運ばれたセザールが城に帰った先で見た光景は――。
「まったく、うちのバカ息子が申し訳ないわ」
「いえ。お母さまのせいではありませんわ。も、と、も、と! ああなんですわ」
「そういってもらえると私も……」
と、お茶を片手に打ち解けている嫁姑の姿で、なんとなく声をかけづらいと感じていると、シャナが気づいて、パッと顔を輝かせた。
「セザール様!」
「もう起きたの、ロラン」
どちらも、怖い笑みを浮かべる彼女らに、セザールは、まためまいを感じたようにふらりとよろめきそして、こめかみを押さえて、この場をどう切り抜けるかを考え始めた。
彼をいつも助けてくれる前世の大魔導師の記憶もこういったことには不慣れだったらしく、何も助言をくれない。
「母上……」
「とやかくいいませんわ。まったく……」
「連絡が遅くなって申し訳ありません」
駆け寄ってくるシャナを受け止めてそれだけを言うと、セザールの母親は、深くため息をついた。
「それについては何も言いません。私のほうこそ、すいませんでした」
「え?」
「息子に母親らしいこともできない母親なんて、……必要とされるわけありませんわ。こうなってもしかたありません」
どこか拗ねたように、寂しそうに言う彼女に、セザールは息を呑み胸に顔をうずめてくるシャナを見下ろした。
「貴女、また何か……」
「人聞きの悪いこと言わないでください。私は、家族になりたかっただけです」
そういうシャナに、セザールは何とも言えない顔をして、シャナを抱きしめたまま歩き、立ったままの母親を引き寄せて抱きしめた。
「ちょ、ロラン」
「きちんと、結婚式などには出ていただきます。……離れることのできるのであれば、公爵を賜ったとき、私の屋敷に来ていただけますか?」
静かにそういったセザールに、母親は目を見開いてセザールを見た。
「それで異論はありませんね? シャナさん?」
「はい!」
「でも」
「新婚が云々は大丈夫です。僕もしばらく忙しいでしょうし、……レイが嫁をもらうまで公爵は得られないでしょうし」
どういう意味だ、という声を無視して、セザールは二人を引き寄せる腕の力を強めた。
「さて、オーランドの、バルシュテインのお屋敷に貴女のことと、それと、両家のあいさつの日程のすり合わせなどの準備をしなければなりませんね」
「花嫁用意ならできていますよ?」
「貴族の面倒な習慣ですよ。無視していいなら一月後に挙式でもいいかと思いますが」
「そんなこと許されるわけないでしょう! 女性にはきちんとした用意が必要なのよ!」
こんなことはなんにも知らないのね、この童貞! と叫びそうな母親の屈託ない声に、セザールは面食らった顔をして、そして、苦笑をかみ殺した微妙な顔をした。
「そうでしょうね。ですから、そうですね、一年ほど、一応僕もまだ王族のままでしょうから面倒な所作などたくさんありますので、そこら辺は、母上、お任せしてもよろしいでしょうか?」
「任せて頂戴」
「では、そのように、よろしくお願いします」
と、軽い段取りを進めてしまったセザールにシャナはぽかんとしていた。
そして、時間が着てオーランドが帰る時間にシャナも一緒に帰ることになった。
セザール(あれ、うちの母ちゃんこんな人だったっけ……?)