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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:秘密の会食の話。
126/146

5,

「ね、セザールさん」

「なんですか?」


 そう尋ねる声は、先ほどバートラムやレーナートやオーランドと話していた声とは明らかに違うやわらかく甘い声だった。


「好きです」


 手を取り合って、寄り添って。


 そう口にしていた。


 その言葉にいささか驚いたように息を呑んだセザールをシャナはいたずらっぽく見上げた。目があって、セザールは相当目じりが緩んだ表情をして笑う。


「僕も、貴女が好きです。……愛しています。シャナ」


 明確な愛の言葉に、シャナは真っ赤になっていた。その顔に、セザールが目を細めるように笑って、そして、空いた片手で懐の内ポケットを探った。


「こんな時に、こんなタイミングで渡すつもりはありませんでしたが、ね」


 そういってセザールは柔らかい布に包まれた何かを取り出して、一度シャナの手を離して丁寧に布を払って包まれていたものを、さらしだした。


「……っ!」

「受け取ってもらえますか?」


 品のいい小粒の透明な石がちょこんと行儀よく納められた銀のリングと、赤い石のついたピアスのセット。


「セザール、さん……っ!」

「私の帰りを待つ、ただ一人の妻になってもらえますか? シャナ嬢」


 そういって膝に布を置いてリングを手に取ったセザールがシャナの左手を取った。


「はい」


 にじんだ涙を手で拭ってしっかりとうなずいたシャナに、セザールは微笑んで薬指に指輪を通して抱きしめようとした。


「あ、セザールさ……」


 その胸を押しやって、シャナは、セザールの膝の上にある布からセザールのぶんの指輪を取って、セザールの左手を取って震える手でそれをはめようとしていた。


「大丈夫ですか?」


 指輪をつまむのも一苦労な彼女の動揺に、セザールもふっと笑って右手を彼女の手に添えて自分の左手に誘導する。そして、ゆっくりとはめられた感触に笑みを深めてシャナを見下ろした。


「今日の日のことを、いつまでも、忘れられないでしょうね」


 豪華に編み込みをされた髪を優しく解きながらそうつぶやいて、強く、シャナを抱きしめたセザールが深く、満足そうにため息をついた。


「まさか、ここまで来て、オーランドと帰るなんて言いませんよね?」

「だからお兄様も、今日はこちらに泊まると陛下にいったんでしょうが」

「はは、そうですね」


 はめられた借りは後で返してやりましょうね、と笑ったセザールにシャナはこくりとうなずいて、甘えるように、その身を預けたのだった。

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