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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:秘密の会食の話。
123/146

2,

「来たな」

「そのようだ」


 笑った二人にシャナは首をかしげて、二人を見た。


「おう、遅れてすまんな」

「兄上!」


 オーランドと同じような正装に身を包んだバートラムと、いつもの文官らしいシンプルなローブではなく、軍事国家として大きいこの国にふさわしい、軍服とはまた違うが、軍服によく似た形の、凝っていて動きやすそうな正装に身を包んだセザールがそこにいた。


「あ……っ」

「え……っ」


 セザールが、シャナに気づき、シャナもセザールの格好に気が付く。そして、言葉を詰まらせて、かすかに顔を赤らめさっと視線をそらした。


「うっわ、あっつあつ」

「ごちそうさま、というべきか?」

「……とりあえず、兄上、こちらにきたらどうだ?」

「ええ。そうですね」


 すぐに立ち直って、いつもの声音に戻ったセザールが、ふっと表情を緩ませ、ゆっくりと歩み寄り、シャナの前に膝をついた。


「お久しぶりです。シャナさん」

「お、お久しぶりです。セザールさん」


 片手を取られて指先にかさついた唇が触れる。絹の手袋に包まれた形のいい指は冷え切っている。相変わらず不養生らしいと思ってため息をつくと、セザールは見上げて笑った。


「まさか、今日、貴女がここにいるとは思わなかった」

「申し訳ございません。驚かせたくて」

「驚きましたよ」


 寄り添わんばかりのささやきに、シャナは赤面して、隣のオーランドに助けを求めた。


「イチャイチャは食った後にしてくれ。料理人もタイミングを見計らうのに大変だ」

「おや。それは失礼」


 さらりと笑って、シャナの手の甲にさらにキスを落としたセザールは名残惜しげに手を放して、レーナートの隣の席について、苦笑を漏らしたバートラムがシャナの隣の席に着いた。


「では」


 目くばせを行ったのはセザールだった。

 執事が一斉に動き出して、レーナートがワインが注がれたグラスを目線の高さまで上げた。

 それを合図に始まったささやかな晩餐に、シャナはそつなく作法をこなしていく。


「きれいな所作だな。シャナちゃん」

「みっちり仕込んでもらいましたから」


 ほめるバートラムに、シャナはにこりと口元だけを笑わせて、フォークを口に運んでいく。


「誰が仕込んだんだ?」

「ジャック。あいつ何でもできるからな」


 男役から女役まで、と肩をすくめたオーランドも、きれいな所作をしている。


「なんでもって?」

「ナンでもだ」

 にやっと笑うバートラムにオーランドもにやりと返す。それを見てきょとんとするシャナと、レーナート、ピンとした表情のセザールがため息をついた。


「その話はあとで詳しく聞きましょうか? オーランド」

「どうせあんたらも探してるんだろうからと、ジャックから言伝も預かってる。帰るつもりはねえだとよ」

「それは……」

「まあ、あいつ自体、シャナの執事を希望してるからな。どうなることやら」


 肩をすくめてオーランドが、セザールを見ると、セザールは苦い顔をしていた。

 その表情にグラスをあおって琥珀色の酒でのどを潤したが、ふと思いついたようにオーランドはレーナートを見た。


「そういえば陛下、今日はここに泊っても?」

「ああ。そのように手配している。遅くに帰っても朝の執務に障るだろう」

「お気遣い痛み入ります。では、そのようによろしくお願いします」

「ああ。シャナ嬢、味はどうですか? 進んでいないようですが?」


 男の話についていこうと巡らせながら食べていると、おろそかになっていたようだった。レーナートが気を回すのに、シャナははっと瞬きをした。


「とってもおいしいですわ。……質問よろしいですか?」

「ええ。どうぞ」

「あなたたち、いえ、セザール様を抜きに何を計画なさっているんですか」


 じっとレーナートを見ると、若い面に穏やかな色を乗せて笑った。


「兄が気に入るのもわかるな。なに、最近忙しくしてしまっているからな。息抜きと、俺の分の仕事も兄がやってくれているせいで、兄の具合がよくないようでね」

「……それは、先ほど察せました。手が冷たく硬かったので」

「……手」


 思わず自分の手を見るセザールに、バートラムが身を乗り出してその手をつかんだ。


「うっわ。氷の手じゃねえか。よくこんなんで女の子の手とれたな」

「そんなにひどいですか?」

「ひどいどころじゃねえよ」


 無自覚なセザールにシャナはため息をついて、レーナートに肩をすくめて見せた。


「まあ、権力の乱用と思ってくれていい。君と会って話すことができれば、兄も元気が出るんじゃないかと思ってね」

「余計なお世話です。レーナート」

「そうか? 少し声に張りが戻ったみたいに思えるが?」

「う……うるさい」


 珍しいそっぽを向いてバツが悪そうな顔をしたセザールに、シャナはふっと笑った。


「では、食べ終わった後、お兄様をお貸しください。陛下」

「ああ。存分に堪能してくれ」


 にこりと二人で笑いあったシャナとレーナートに、オーランドとバートラムはにやっと笑って、セザールだけ顔をしかめていた。

 それから、和やかに会食は進み、食べ終わって、シャナは宣言通り、セザールの手を取って部屋の外へ出て、用意されたシャナの客室へさらっていった。

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