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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:秘密の会食の話。
122/146

1、

「シャナ」


 静かな呼び声に、シャナはしずしずと足を進めて、手袋に包まれた大きな手を取った。


「緊張しなくていい。一匹見慣れない黒髪がいるけれども、それ以外は見慣れたメンツだ」

「……見慣れた?」

「俺と、セザールと、バートラム。それと、陛下がいるだけ。陛下はお前と同い年ぐらい。セザールと同じで、女どもにたかられて苦労の絶えないちびっこだ」

「ちびっこって、お兄様……」

「俺から見たらちびっこだ。まだまだ青い」


 貴族らしい服装ということで、軍服の正装にすこし装飾をくわえた服装で、貴族であり将軍でもある威厳を若い形ながら振りまくオーランドの隣に、シャナは、ワインレッドのドレスを着て、立っていた。


 今日は、国王、セザール、否、王兄のロランとの会食の日だった。

 晩餐に呼ばれた二人は、そろって登城し、食堂へ通された。


「待たせてすまない」


 しばらくして若々しい声が、入り口から聞こえてきて、オーランドとシャナは背筋を伸ばした。だが、入ってきたのは一人の青年。きょとん、とシャナがオーランドを見ると、こくりとうなずいて、青年を見据えて頭を下げた。慌ててシャナもそれに従って淑女の礼をする。


「いえ。わたくし共も、今しがたついたばかりですのでお気遣いなく」

「国王陛下のご機嫌も麗しゅう」

「堅苦しくしなくともいい。嫌いだ」

「……かしこまりました」


 一礼して、そのまま顔をうつむかせていると、くすりと笑う気配。つい、と視線を上げると、セザールとは毛色の違う、だが、どこか似た面立ちの若い青年がかすかに笑んでオーランドを見ていた。


「こちらのお方が、わが兄の好い人?」

「そのようですな。陛下」

「ずいぶんと控えめな方だ。初めまして。バルシュテイン伯爵令嬢。シャナ・ユベール・バルシュテイン嬢」


 はっと顔を上げると、まだ、十代といっても差し支えないほどあどけなさが残った顔に、くっきりと隈をつけた、黒髪の青年が、立っていた。あどけなさが残った顔だけにその隈がとても痛々しい印象を覚えさせる。


「陛下……。わたしの?」

「ああ。兄のいい人であるならば、猶更、覚えておかないとな。なんだ、どんな凶悪な面構えかと思ったらかわいらしい方じゃないか、オーランド」


 気安く片目をつぶって笑う仕草に、どこか毒気を抜かれて呆けていると、オーランドが軽く笑い声を立てた。


「そこは親父に似なくてよかったと俺も思ってますよ」

「はは、じゃあ、お母上似ということか」

「ええ。この目じりのたれたところとか、母そっくりで、まあ、安心しましたよね」

「お前にそっくりだったらどうしたものかと思っていたんだ。まあ、兄さんが、そんなことを気にするとは思わないけれども」


 ふっと表情を緩ませた青年、この国の王であるレーナートに、シャナはふっと肩の力を抜いていた。


「兄さんは後から呼び出す」

「……貴方も悪い人だ」

「たまにはいいじゃないか。あの食えない兄を驚かしてやっても」


 さあ、席につこうかと向かい合う形に席について、なれそめなどを根掘り葉掘り聞かれて、包み隠すことをやめた。


「はははっ、あの兄さんがぶっ叩かれたか」

「さすがに、聞いた時ヒヤッとはしましたが、何かあればあっちから言ってくるだろうから放っておいたら、いつの間にか、ねえ?」

「いやあ、そんな趣味があるとは思わなんだ。いいこと聞いた」


 笑う陛下に、どこか安心したようにそれを見ているオーランド。

 そして、廊下からバートラムの馬鹿笑いの声が聞こえてきて、焦るセザールの声も聞こえてきた。

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