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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:カレン・ウィードリイの悔悛
118/146

3,

「いきなり、だな。アーロン」


 お茶を渡して、軽食に口をつけるのを見たオーランドは、ゆっくりと口を開いた。


「ん? ああ。何度か会おうと思ったんだが、お前、いつも忙しそうだからさ」


 診察台に足を延ばした状態で座って、パンをかみちぎるアーロンにオーランドは肩をすくめた。


「いろいろやってるからな」

「よく聞くよ。バルシュテイン閣下はって」

「医者のほかに学校の先公まで押し付けられた」

「はっ、ひでえな」

「まったくだ。逆らい続けた記憶しかない俺が今や先公だと」

「何があるかわからんよなあ」

「……ああ」


 思わずうつむいたオーランドにアーロンが顔をしかめた。


「そういうつもりでいったんじゃねえって」

「お前にはそんな頭はないもんな」


 皮肉るように言ったオーランドが肩をすくめてお茶に口をつけるのに、アーロンは深くため息をついた。


「辛気くせえ」

「いつものことだ」


 そっぽを向いたオーランドに、アーロンがなにか言いたげに口をもごもごさせてうつむいた。


「ガキの頃はもっとちがかっただろう」

「大人になったんだ」

「……俺のせいだな」


 低いつぶやきにオーランドが立ち上がった。


「違う」

「どこがちげえんだ? 俺がお前に死んどきゃよかったっていった後からだろ」


 立ち上がったオーランドを見上げてアーロンが鋭く言い放つ。その言葉に、オーランドの表情がこわばって、思わずといったように、顔を背ける。


「……でも、俺がお前の命を救う代わりに、輝かしい名誉を奪ったのは現実だ」


 戦争の時に折った傷が原因で、アーロンは退役を余儀なくされた。そのことを若いアーロンが、処置したオーランドを詰ったとしてもおかしくはない。


 処置しなければ、将軍閣下の孫息子の栄誉の戦死、として軍部の士気を上げる格好の材料になったはずだった。


 しかし、実には、オーランドの的確な処置のおかげで一命をとりとめ、片足は動かすこともままならない状態で、生き恥をさらした。


 そう言う、心無い軍人たちが当時のアーロンを追いつめていたのだった。その事情はオーランドも知っている。


「あの時は本気でそう思ってた」

「……」


 視線を落としたオーランドに、アーロンが顔をしかめながら立ち上がった。保護器具のない足を床につけながらも、片足ではねるようにオーランドの前に向かい、そして、その肩に手をかけて顔を覗き込む。


「でもな、今はそう思わない。俺は何度もお前にそういってきたはずだ」

「……。ああ」


 飽きるほど聞いたというオーランドの顔には、隠しきれていない後悔などの表情が浮かんでいる。その表情を見ながら、アーロンは、まっすぐとオーランドの目を覗き込んだ。


「それに、こんな俺でも貰ってくれる嫁さん見つかったし、軍にも復帰できることになった」

「……え?」


 思いがけない言葉にオーランドが顔を上げると、少し低い位置に、アーロンのいたずらが成功した子供のような笑顔があった。


「今日は、それを話そうと思って。嫁さんにも、軍復帰の話しは話してないんだぜ?」


 お前だから真っ先に話したいと思って、突然押しかけちまったんだ。


 と嬉しそうに、話すのを聞いて、オーランドは言葉を失ってまじまじと、アーロンの顔を見ていた。


 それほど、思いがけない言葉だったのだ。


「ガセじゃねえだろうな」


 漏れたのは、そんな言葉で、その言葉尻はみっともなく震えていた。


「ガセなものか。ちゃんと赴任の依頼書だってもらってきた」


 ポケットにねじ込んだらしい紙を取り出して、オーランドに差し出して笑ったアーロンは、震える手を差し出すオーランドに握らせた。

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