3、
そして、翌日。
医院の店番を任せている少女、エリーが朝食を持って、やってきて、具合は大丈夫と返事をしながら、カレンは、下のがやがやとした雰囲気にうずうずとしていた。
「んっ!」
だめ、というようにエリーが両腕でバツ印を作るのに、苦笑して、わかっていると頭を撫ぜて下へ返してやる。
やわらかく煮込まれた野菜スープと適度に汁を吸った黒パンがおいしかった。
「これ、たぶんオーランド作ったやつよね……」
一度見たことのあるスープに、カレンが複雑な顔をして食べていく。
そして、すぐに食べ終わって、やることがないからベッドに横たわる。
「こんな怠惰な生活いいんだか……」
暇って贅沢よねえ、とつぶやきながら、またうとうとと眠る。
そんな風にして一日を過ごして、ひとまず営業終了時刻を迎え、後片付けもひと段落したころに、オーランドがくたびれた顔をして入ってきた。
「すっごいツラ」
「うるせえな。久々の診療なんだ」
「いつも書類仕事?」
「ああ。詰所の医務室を解放する方針が決まってな」
「なにそれ」
「軍医の経験を積ませるためにな。あと、ちっとここの負担が大きすぎるから軽減するために」
「……やっぱり一人じゃ無理?」
「回らないと思う。忙しいから一人一人の時間を短くすれば誤診にもつながるからな」
肩をすくめて言われた言葉にカレンも苦笑を漏らしてうなずいた。
「あたしもそう思ってた」
「だから、一日交代で町の主要な詰所の医務室を解放して市民が入れるように今調整しているんだ。講義とその調整とで、机に向かうことが多くてな」
「バートラムさんや、セザールさんに呼びつけられることは?」
「今のところは突っぱねてる。そこまで手を出したらくたばるわ」
「そこまで手を出しているって言われたらどうしようかと思った」
肩をすくめて、カレンがぽつぽつと無精ひげが伸び始めているオーランドの頬にふっと笑った。
「なんだ?」
「珍しいね。ひげ」
頬を指さして言うと、ああ、とオーランドが苦笑した。
「なんだかんだ言って昨日屋敷に帰ってないからな。整えられなかった」
「髭剃りならあるよ?」
「あるのか?」
「浴室の引き出しの下から二番目にお父さんが使ってたやつがある」
「……後で使わせてもらう」
さっきから襟が引っかかってうざい。と不機嫌そうに目を細めるオーランドにカレンは笑っていた。
「だいぶ顔色もよくなったな」
「そりゃあ、こんだけ怠惰な一日を過ごさせてもらったら……」
「そうか」
少し表情も明るくなったカレンに、明らかにほっとした色を見せたオーランドは、そっとため息をついて、ベッドサイドに置いた椅子に腰をかけて目頭をもんだ。
「お疲れ様」
「ああ」
柔らかいカレンの声音に自然にオーランドの声音も柔らかくなる。
「今日は? 泊まってくの?」
「いや。お前の状態が良いようなら軍舎に行って夜勤のつもりだ」
「……また……」
「まだ大丈夫だ。あっちで仮眠もとる」
文句ないだろう、と言いたげなオーランドに、カレンは深くため息をついてなにか言おうと口を開いた。