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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:カレン・ウィードリイの悔悛
115/146

2、

「守りたい人がいるからだ」


 オーランドはそういってカレンを覗き込んで目を合わせた。


「え?」

「今、顕著だが、平民上がりの連中はみんなそういう。誰かを、少なくとも身近にいる人を守りたい。家族、恋人、近所のおっさんおばちゃん。そのために国を護るんだって」

「……」


 オーランドのその言葉にカレンは目を逸らした。その目線にオーランドはふっと表情を緩めて額に手を当てた。


「俺は、医者という、過去から逃げるために殺しを選んだ。そういう意味じゃあ、まっすぐなことを言える新兵共とは違う汚れた存在だろう」


 覗き込むのをやめて体を起こしたオーランドが、窓の外へ視線を投げる。


「でも、やっぱり、そこに誰か傷ついた人がいるならば、医者としてふるまってしまう自分がいる」

「オーランド?」

「医者として、守りたいと。そう思う自分がいるんだ」


 カレンの髪を、また、梳きながら、オーランドは目を細めて、うつむくと自嘲気味な笑みを浮かべた。


「皮肉だよな。否定したのに否定しきれなかった。俺の守りたいは、無力な一般市民だけじゃなく、けがを前に無力に震える軍人まで入っているんだ」

「オーランド」

「最近やっとそのことに気付いた。でも、……軍人には、誇り高い死が必要なんだ」

「……そんなことは」

「医者としてみたら、そんなものありはしない。……そこからして、俺は、根っからの医者だった」

「……」

「皮肉なものだ。医者を否定するために軍に入ったのに、軍では医者と振る舞い、軍人に求められた誇り高い死を奪った」

「……オーランド? まさか?」


 オーランドの口からは語られることのなかった戦時中の彼の動き、人を殺していただけでないというような言葉に、カレンは目を見開いてオーランドを見た。

 うつむいたオーランドは、カレンの紙を撫でている手とは反対の手を固く握りしめていた。力が入りすぎて、震えるほどに。


「……そう。あの戦争の時、総大将の孫息子に対してそれを行って、アイツは片足を不自由にして生き恥をさらすことになった」

「……生き恥なんて」

「実際、……そういう空気が色濃くてな。退役してしまった。……本人にも、死んでいればよかったといわれ、変わってしまったアイツを見て、……死なせてやった方がよかったろうなって、思った」

「そんなこと」

「ないと、まっすぐ言えるか?」


 顔を上げたオーランドの目を見返して、カレンは顔を背けた。


「お前、まだそういう場面に出会ったことないだろう」

「……うん」

「あいつも衝動的にそういっちまったのもわかっているんだが、棘のようにその言葉は消えてくれない」

「……」

「誰かしら、何かしらに、誰でも罪悪感や無力感を持つものさ。カレン」


 俺だって、あの時死なせてやってれば、完璧に足の腱を再生出来ていたらと、思うことがある。


 オーランドはそういって、カレンの目を見る。


「だから、お前は、俺に守られることに、罪悪感や無力感を抱かなくていい。お前ができないことをするために俺がいる」

「……え?」


 人の関係性なんて、そんなもんだろう。


 と口早にぼそぼそと言ったオーランドが恥ずかしくなったのか、そっぽを向いてそういった。


「お前は、俺の話を聞いてくれる。……それだけで、いいんだ」


 そう続いた言葉に、カレンはうつむいた。


「でも、あんたにいろいろひどいこと言った」

「それはもういいっていっただろ」

「でも……」

「て、この話をすると、長くなるな。病み上がりだ。もう休め」

「オーランド」

「元気になったら続きだ。休ませるために仮眠室でて、お前の部屋まで送ったのに、何してんだかな」


 明日一日お前は休みで俺がここを持つ。


 そう言って、一方的に話を切ったオーランドは席を立って背中を向けた。


「本人に気に病まなくていいといわれたことでも、気に病んでしまうこともあるのはわかっている。……ゆっくり消化して行け」


 それだけ言ったオーランドが部屋を出ていくのを見送りながら、カレンは、何も言えずに、ベッドの上からも動けなかった。


「……なにかっこつけてるんだか」


 ぽつりと漏れたのはそんな憎まれ口で、カレンは目を閉じて顔をしかめ、やることもないと体をベッドに倒して毛布にくるまるのだった。

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