2、
「……俺のまねなんかしなくていいよ」
そんな声が、聞こえた気がした。
ふっと目を覚ますと、窓からは、月明かりが差し込み、白衣を脱ぎ、シャツも緩めたオーランドが、傍らについて、カレンの看病をしていた。
窓もない仮眠室から、見覚えのある部屋に寝かせられているのを見て首を傾げていると、オーランドが覗き込んできた。
「起きたか?」
「今何時?」
「もう夕飯時だ。よく眠ってた」
「……よく寝た」
寝汗で凝った髪を梳きながら、オーランドがふっと表情を緩めた。
「あんまり無理はするな。女の体は無理に敏感すぎる」
「でも……」
「少しぐらい休んでも、連中は死にやしねえよ」
殺しても死ななそうな連中ばっかりだからな、と笑いながら言うオーランドに、カレンもそれは否定できなかった。
「…………。軍部の医者もなかなか使えるようになってきた。これからは詰所の医務室を解放して、医者のまねごともできるようにするつもりだ」
ぽつりと、オーランドが漏らす。その言葉のないようにカレンが目を見開いて、オーランドを見つめていた。
「いつまでに?」
「近いうちにだ。最近俺が忙しいのはそれのせいでな。三つの詰所に三人ずつ付けて、日勤でやらせる」
「じゃあ、うちはいらない?」
「そんなわけないさ。でも、売り上げは減るだろうな」
冗談めかして言うオーランドは、カレンの髪をゆっくりと撫でている。
その感触が、いつになく優しくて、カレンの涙腺も緩くなりそうになる。
「売上なんて……」
「わかってるよ。そんなん度外視してるのは。国にも事業として通してもらってな。補助も出るから、軍部の診療では基本的に金はとらない」
「……」
「お前がいらないわけじゃない。でも、お前ひとりで背負う必要はないんだと、俺は言いたい」
リチャード医師が、辺境への赴任を希望したあたりから、お前はずっと忙しさにかまけて自分のことは後回しだっただろう。
そういいながら、オーランドはカレンを撫でていた。
「それとも、何かを忘れるために仕事を入れているとか、言わないよな」
その声に、一度頭が理解せずに、カレンは眉をよせて、その意味を考えた。
「罪悪感を忘れるために仕事してたら体壊すぞ」
「……っ」
目を見開いたカレンに、オーランドはそっとため息をついた。
「シャナに自分は無力だって獄中で言ってたと聞いたからな。十中八九お前のことだからそうじゃないかと思ったが、やっぱりか……」
「……」
うつむいたカレンの髪を変わらずに撫でながらオーランドは目を閉じた。
「軍人はな、何も人を殺すためにそこにいるんじゃない」
「……それはもうわかってる。」
「じゃあ、なんで軍人を志望する若者が多いと思う? 貴族の連中はただの安定の職だからという。だが、平民の軍人の志望は横ばいどころか右肩上がりだ」
「……国を護るため?」
「連中に国という大枠で物事をとらえられていたら、もっと国の貴族の連中も頭よくなるだろうな」
皮肉って笑うオーランドにカレンは眉を寄せた。
みんなまだ騒いでてくどいようですけど、5年ですね。
あのときのことは、5年たっても鮮明によみがえってきますね。高校二年生の高校入試の休み期間。一か月後には三年生っていうタイミングで起こってしまった大震災。
部活中の出来事で、外にいるのは寒いということで開放された食堂の中で、まだ状況が理解できていないお気楽ものどもに呆れた思いを抱いたのが、思い出せます。
袴履いてる状態だったから、先生の目を盗んで崩れそうな部室棟に戻ってジャージなどの私物を取りに行ったっけ←