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そうして、どれぐらいたっただろうか。
「おい、生きてるやつのところに案内しろ」
と、冗談にするにはきついことを言いながらオーランドがやってきて、カレンの姿を見て目を見開いた。そして、混ぜっ返すような人の悪い笑みを浮かべてカレンの二の腕を小突いた。
「これは、これは。軍人嫌いの女医者が軍人診てるとはな」
「私は人殺しになりたくないもの」
そっぽを向いてそういうカレンに、周りにいた軍人たちが顔をしかめた。その表情に、カレンはばつが悪そうに頬を掻いて、肩をすくめて言うのだった。
「好きで殺してるわけじゃないのはもうわかっているわ。だからこうやって助けてるんでしょう」
前はそれこそ軍人と一緒にいたくないからとっとと帰ってちょうだいといっていたカレンだが、何かしらの心境の変化があったらしい。
「閣下の愛の力か?」
どこかで漏れたつぶやきに、オーランドとカレンはそろいもそろって同じ目をして同じところをにらみつけた。
「ぴゃッ」
さっと近くにいた大男の影に隠れた軍人の名前をオーランドが思い出すより早く、カレンがよろめいた。その腰を抱いて支えるオーランドに、周りがお、という顔をして、互いの顔を見合わせた。
「カレン」
「……病み上がりにはちときつかったみたい」
「……ここでいいなら仮眠室を開けよう」
「手術は?」
「医務室がある。医務室の準備は!」
「出来ています! 閣下!」
矢継ぎ早の応答に、カレンはほっとして、思い切ってオーランドに体を預けて目を閉じた。それを両手で抱きかかえるように支えてやって、オーランドは指示を待つ部下たちを見やった。
「じゃあ、教えた通り救急度が高いと思われる者から搬送しろ。ミネア」
「はい!」
「すまないが、カレンを仮眠室へ。それで護衛を」
「かしこまりました、閣下!」
すぐさま動き出す部下の姿に満足げにうなずいたオーランドが、カレンを抱き上げ仮眠室へ向かおうとすると、カレンが、顔を上げた。
「あ、オーランド」
「なんだ?」
「あんたの名前使って腰ぎんちゃく勾留しちゃった」
「……は?」
とあったことを伝えると、オーランドの周囲の空気が冷えた。殺気すら漂っているそれに、誰もが顔をこわばらせてぎくしゃくと動く。
「けがは?」
「大丈夫。ちょっとほっぺひりひりするけど」
「女の顔に手を上げられるやつはろくでなしが多い。むしろ、よく名前を使ってくれたな」
よしよし、と言いたげに頭を撫でられて、ガラにもないことするな、とカレンがそっぽを向くのを、周りは生暖かい顔をしてみていた。
そして、オーランドはカレンを仮眠室に連れて行き、医務室へ向かい、カレンはベッドに寝かせられてすぐに気絶するように眠ってしまっていた。