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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:カレン・ウィードリイの悔悛
110/146

1、

 そして、ふっと目を覚まして、時間を確認する。大体二時間ぐらい、眠っていただろうか。


 体を起こして、少し楽になっていることに苦笑を漏らして、カレンは一つ伸びをした。ふと、耳を澄ましてみると、一階部分でカレンを呼ぶ声が聞こえ、立ち上がって急いで身支度を整えた。


「エリー?」


 こそ、と扉を開けて見つめている受付の少女を手招きしてどうしたの? と声をかけると、彼女は困った顔をして下を指さして急患。とだけ口パクで言った。


「わかった。ありがとうね」


 白衣を羽織って下へ向かうと、オーランドの置手紙があった。軍学校で手当てが必要なバカが出たから一回消えるということだった。


「どうしたの?」


 そうして表に出ると、焦った様子でカレンを探していた街の若い女性を見つけ、声をかけると、カレンを見てわっと泣き出した。


「え? え?」

「軍の詰所近くででかい荷馬車の積み荷が崩れてなあ。来てもらいたい」


 町の人が取り乱しているのに戸惑っていると、若い軍服を着た男が困ったように頬を掻きながらつぶやいた。顔にでかでかと、しまった、と書いてあるような表情に、カレンもまた微妙な顔をする。


 最近では見慣れたものになった軍服だが、オーランドとの関係が直るまでは徹底的に避け続けていたものだった。

 人殺しを助ける腕はないと、彼らを目の前に言い放っていたこともある。


「あんた、軍人嫌いの女医者様だろ?」


 そういう彼に、カレンは、自分がやらかしていたことだとはいえ、頭を抱えたくなった。オーランドの首吊り子爵のほうがまだ箔がつくというものだ。


「まあ、そう呼ばれているけど、今はもうそんな軍人がどうの何て思ってないわ。積み荷が崩れてって、大丈夫なの? 救助は?」

「挟まれた人はいないんだが、馬にけられたりなんだりでなあ。もともと暴走した馬車で、街の人が避難していてくれたからましだったんだが」

「じゃあ、けが人はみんな軍人?」

「ああ……」


 すがるような目をしている男に、カレンはそっとため息をついて 往診鞄を二つ持って両方とも軍人に持たせた。


「え?」

「一つ、オーランドの。急がなきゃまずいんじゃないの?」


 覚悟は決まっている。と言いたげに微笑んで見せるカレンに、往診鞄を二つ抱えさせられた軍人は、目を見開いて、力強くうなずいた。


「こっちだ」


 軍人が加減しながら走るあとをカレンは追いながら、遠くから聞こえる怒号や悲鳴じみた声に目を細めた。


「こら! こっち来るな!」


 現場の封鎖らしい軍人がカレンを止めるのに、むっとして、その男の目の前に仁王立ちして指を突きつける。


「あんたらに言われて来てやった医者なんだけど、帰っていいの!」

「え? あんたが?」

「女医の腕は心配?」

「……」


 野次馬をけん制する軍人に喧嘩を吹っかけてひるんだすきに大きな体格の隙間を縫って奥へ入る。後ろから声が聞こえるが、カレンを知っている誰かがどうにかしてくれるだろう。

 走って現場へ急ぐカレンにぎょっとした顔と怪訝そうな顔と、感心したような顔をしている男たちが大体同じぐらいの割合にいる。その顔を務めてみないようにしながら、現場へ駆け込んだ。


「……ひどいね」


 石造りの詰所の真ん前に横倒しになった馬車と、リンゴやその他硬く重い果実がいっぱいに詰まった木箱がそこらじゅうに倒れている。野次馬が多いのはその果実を虎視眈々と狙っているからだろう。

 石畳を見ると、血の染みや、何かを引きずった跡など、ひどいありさまだった。


「ねえ!」

「なんだ! 下敷きになった哀れな恋人の行方なんざ知らねえぞ!」

「うちの人が下敷きになるもんか。つーか、下敷きになった人は全員引っ張り出したの?」

「なんだいおまえ……。ああ。それはそうだが、気を失ってるやつとか……」

「どこにいる?」

「なにするんだよ、怪しい奴は……」

「白衣でわからない? ここらで商売させてもらってる医者よ。近場に医者がいないかあんたらのお仲間さんがこっちに来て呼ばれて来てやったわけ」

「あ、医者か? そりゃ、すまんかった。こっちに来てくれ」


 これどうするよ、とぼやいていた暇そうな軍人を捕まえてけが人のところまで案内させると、すでに詰め所にいた処置の心得のある兵士たちが忙しそうに働いていた。

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