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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
1章:彼にとって日常とは
11/146

1、

「あ……私は……」

「かまわん。気にするな」


 シャナが言いたいことを先回りしてオーランドが言うと、シャナは目を見開いてもの言いたげにオーランドを見た。


「ハーブティー、好きなんだろう? 飲みたければ飲めばいい。別に、俺は気にする貴族もんじゃない」


 そうして、一口口をつけて見せたオーランドにシャナは、一言断ってから、両手でカップを持って一口、口をつけた。


「おいしい!」


 目を見開いて、思わずオーランドに言うと、オーランドはその無邪気な表情に目を見開いて、ふ、と表情を緩ませた。


「ああ。これは、ステビアでも混ぜたか?」

「ああ。お嬢さんもいることだ。甘いお茶で少し和んでもらおうと思ってね」


 くせのある酸味。茶の色から、ローズヒップが入っているのはシャナでもわかった。赤っぽいお茶の色が、白いカップに映えて、ろうそくの明かりを反射している。


「あと、カモミールも入っているな。体を温める作用もある。寒い朝にはいいお茶だ」

「体を?」

「ああ。カモミールの作用だ。体を温めて心を落ち着かせる。だから、眠れないときに飲ませたりする」

「カモミールの香りって、……旦那様も使っていらっしゃいますか?」


 鋭い指摘にオーランドが苦笑して肩をすくめる。香水とまでは言わないが、カモミールと、もう一つ、ローズマリーの香りをメッセージカードに焚きこんでいるのだ。その香りが自分に移っても不思議ではない。


「まあな。悪い香りではないし、……万能な香りだから」

「万能なんですか?」

「ああ。オイルは鎮痛や、腹風邪などにも使える。これと、ラベンダー、ティーツリーを合わせれば、たいていの症状を診れる」


 そう解説を入れながら、次に出されたお茶請けの菓子に練りこまれたハーブについても解説を加えるオーランドに、シャナは目を丸くしながらも、その言葉にうなずいていた。


「旦那様は、よくご存知なんですね」

「……まあな。薬を買える貴族が多いわけじゃない。圧倒的に薬を買えない庶民のほうが多い。俺の隊も、俺の屋敷にいる連中も薬を買えないような連中だ。彼らを守るのも俺の仕事の一つだ」


 しっかりとそういう彼にシャナは驚きながらも、ほう、と感嘆の息を漏らした。


「なにかっこつけちゃってるんだ。坊ちゃん」

「かっこつけてない。実際思ってることだ」

「だったらとっとと伯爵奪って、領民にハーブ売りでもさせるこったな」


 かかかと笑った老人に物いいたげにオーランドはにらんでいたが、深くため息をついて肩をすくめた。


「書類仕事なんてしてられるか。まだ、動く軍部のほうがやりがいがある」

「癒す手を持ちながらも人斬りか」

「そーだな。そっちのほうが割に合う」


 護身のために忍ばせてあったらしい短剣を懐から抜いて、ろうそくの光に反射した刃に笑って見せた。


「この邪悪な笑みな。これで医者の真似事も完璧に出来るってだれが信じられるか」

「医者だからこそどこを切ったら良いかわかるんだろう? 切るのは得意だ」


 ハーブティーとお茶菓子を囲んで話すような内容ではない。


「ほら、お嬢さんが呆れてるぞ」

「あんたが振ってきたんだろうが」


 取り直すようにお茶を口に含んだオーランドはちらりと目に留まったらしい本を、本棚から抜いてシャナに差し出した。


「キミは医術的なハーブの使い方というよりは、もっと実用的なハーブの使い方を学んだら良い。こういう本は持っているか?」

「なんならやっても良いぞ」

「じゃあくれ」

「おう、いいぞ。代金はお前に付けとく」

「売り物じゃねえだろが」


 漫才のような掛け合いに、シャナがこらえきれずにくすりと笑った。その表情に、オーランドと老人はちらりと目配せして肩をすくめる。


「これは……?」

「香りにはどんな効果があるのか、ということが書かれた本だ。まだ、これは易しめの本だから、キミでも難なく読めると思うんだが」


 シャナは差し出された本を受け取ってぱらぱらとめくってみた。表や絵を使った見やすいものだった。


「すごい……」

「こんな本が沢山ある書店を知っているが、これから行くか?」

「はい! 行きたいです」


 目を輝かせるシャナに、オーランドの雰囲気も穏やかなものになっていく。


「デートだデート」

「同じ知を分かち合うわけだ。先行くものとして教えるのは普通のことだろうが」

「テレないテレない」

「照れてねえっ!」


 老人がニヤニヤしながらなにかを言おうとしたとき、店に来客のベルが鳴った。

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