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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:シャナ・ユベールの奇妙な文通相手
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7,

「……私も、あなたがいなくなったら怖い」


 冷たい手の甲に自分のぬくもりが移ればいいと手を置いて、シャナはぽつりとつぶやいた。


「え?」


 セザールが、間抜けな声を上げた。顔を見ると、目を見開いてぽかんとシャナを見ていた。珍しい表情。


 その顔に、今自分が何を言ったかを正確に理解して、そして瞬時に次の行動へ移っていた。


 この言葉は、今までの文通の関係から一歩踏み出してしまう言葉だ。


「確かに、第一印象はあなたは最悪でしたけど。でも、私のところに通ってくれる時に見せてくれる、政務官セザール、としての仮面をはがした表情、疲れ切った表情、気の抜けた表情、弱った顔、実は細やかで人当たりのいい人であるとか、人の拒絶にものすごく気にしてしまう臆病な面、柔らかな言葉遣い、いろんな面に触れて、あなたを嫌いじゃなくなってしまいました」


 シャナはそう言ってすっかりと冷え切った指先を包み込んだ。


「もっと、あなたを教えてください。話などしたくないと、いった言葉、撤回します」


 彼が見せる時々の自虐は、あの頬をひっぱたいたときのことを気にしているからだと、気づいていた。


「一方通行ではないと思いますよ。……私は」


 驚いた顔をしているセザールに、シャナは、どこかしてやった、という気分を味わっていた。自然と笑みを浮かべていると、セザールはその顔を見てか、はあ、とため息をついて苦笑を漏らした。


「まさか、女性からそういった類の言葉をもらうとは……」

「私は、希少価値の高い女ですからね」


 笑うと、セザールはふっとうつむいて目を閉じて、肩を震わせた。


「そこまで希少価値の高い女性にならなくても十分に君は魅力的ですよ。シャナさん」


 吹っ切れたようにそう言って自分の手の甲をさすっていたシャナの手を捕まえてぎゅっと握った。


「いくら待たせるかはわかりません。でも、待っていてくれますか?」


 情けないですけど、嘘はつきたくないので、と笑うセザールにシャナは、もちろん、と笑うのだった。

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