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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:シャナ・ユベールの奇妙な文通相手
104/146

7,

「私は?」


 ぽつりとしたその問いに、セザールは瞬きをして、シャナの目を見据えた。


「貴女ぐらいです。いえ、おそらく、カレンさんもそうでしょうね」

「確かに」


 くす、と笑ったシャナをセザールはまぶしげに見た。


「そんなあなたに、僕は随分と救われた。同時に、あの下等生物との差にあきれるしかできなかった」

「救われるなんて。……私はだれかを……」

「こうやって、誰かを店に誘いお茶をして街を出歩くことを考えさせただけ、あなたはすごい女性ですよ? ……なにせ、僕は、ロラン王子は一切の人前に出ずに、セザールは、バートラムしか表に引きずり出せないといわれているぐらい、人前に出ないで王城の中で過ごす引きこもりです」


 目をぱちくりするシャナに、ふっとあざけるように笑ってセザールは自分の分の冷めた紅茶を口にした。


「だからね、シャナさん」


 一息入れたセザールが、シャナをまっすぐ見た。


「誰かのためだったら消えていいとか、考えないでくださいね?」


 その言葉に、シャナは息をのんだ。


「前回の、カレンさんの医院に魔女狩りの神官が訪れたとき、あなたは進んで彼らに身を投じたと聞きました。そして、今回のこと。誰かのために自分を犠牲にする。確かに美しい行為でしょう。でもね」


 テーブルの上に置かれたシャナの小さな手を、するりと血の気のなくなり、固く冷たくこわばったセザールの手が包み込んだ。


「もし、あなたのために、あなたが大切に思う人が自己犠牲に身を投じたとしたら?」


 柔らかく握られて、シャナは瞬きをした。その言葉の意味を考えてみる。


 もし、シャナを救い出したオーランドが、シャナをかばい、背中から刺されたら。もしくは、暴力の限りを尽くされたのなら。


 もし、先ほどセザールがかばった毒が、口からではなく直接触れた皮膚から吸収される類の毒であったら。


 さっと、顔を青ざめさせたシャナを見て、セザールは小さく、口元をほころばせた。


「その恐怖を、忘れないでくださいね。少なくとも僕やオーランド、カレンさんもその恐怖を味わいました。同じ恐怖を抱かせたいですか? 抱きたいですか?」


 かたかたと手を震わせるシャナをなだめるようにセザールはその手の甲を優しくさすっていた。


「なら、今後慎んでください。本当に、肝が冷えた。本当に、……僕は怖かった」


 指先を握りこんだセザールが、声を震わせるのに、シャナは目を見開いて握りこまれた指を握り返した。


「……ごめんなさい」

「気になさらないでください。……僕の感情は一方通行でしょうから。でも、反省はしてくださいね」


 声を荒げるもなく、ただ、とうとうと諭す口調にシャナはうなだれていた。


「……まあ、結果的に守ることができてよかったです」


 少しだけ、声を明るくさせたセザールにシャナは顔を上げて、笑おうとして失敗している顔を見て、うつむいた。


「どうしました?」

「……自分の顔見てから言ってください」


 首を傾げたセザールに、シャナは、ぎゅっと手を握って、その手の甲に手を重ねた。

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