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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:シャナ・ユベールの奇妙な文通相手
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7,

 そして、案内されてきたのは、王城近くの表通り。


「どこに?」

「大丈夫。そんな格式がどうとかそういう店じゃないですよ」


 そういって、表通りにありながらもこじんまりとした、それでいて歴史の感じさせる重たい茶色の扉を押してシャナを中に入れた。


「ジュリアさん」

「はーい? おや? 殿下が女性を連れてくるなんて……」

「黙っててくださいね?」

「はいはい。お安いよ」


 片目をつぶって笑う背中の中ほどまで伸ばした金髪をポニーテールに結んだ女性はひょいっと姿を消した。


「ここは?」

「私の行きつけのお店です。紅茶がおいしくてね」


 適当なテーブルセットについて、お茶が来るのを待つ。すると、すぐにジュリアと呼ばれた女性が、二つティーセットを手にやってきた。


「突然だったからお菓子はないわ」

「また、そんなこと言って。魔晶石ですか?」

「わかってるじゃない」


 セザールがどこからともなく透明な石を彼女に渡すと、彼女もどこからともなく皿いっぱいの焼き菓子を出して、テーブルに置いた。


「毎度あり」

「あれでおつりなしですよ……」


 にんまりと笑うジュリアにぼやいたセザールにシャナは首をかしげていた。


「とりあえず、おなかすいたでしょう?」


 好きなだけ食べてくださいね、というセザールに甘えてシャナは、好きなお菓子を食べてお茶を飲んでいた。


「……ここに私を連れてきた、その意味を教えてもらえますか」


 おなかの具合が落ち着いてきて、シャナがセザールを見ると、セザールはふっと笑った。


「いえ、とくには。と言っても、貴女には通用しませんね。……まあ、落ち着いて、僕のこと、僕が抱えている秘密、などについて話そうかと思いましてね」

「……わかりました」


 それは、彼自身に覚悟がついて、シャナを信用してくれた証のようなものだ。


「さっきも言った通り、僕はロランという名前で王子をやってました」

「過去形?」

「ええ。今はセザールとして名を変えて、政務官。さすがに、王子が政務官なんてやってられませんからね。本来の立場であれば、僕は公爵でも貰って隠遁生活をしているべきものですが、……弟の仕事が大変そうだから手伝っているのです」

「……陛下の仕事が?」

「ええ。弟は、今年でやっと20。王位を継いだのは、14の時です」

「……幼い、ですね」

「ええ。その通りです。でも、僕は、18で、適齢でしたが、母親の身分が低かったから、王位はわたることがありませんでした。……まあ、弟は体が弱いから、万が一の時のために大切に保管されている種馬ですね。僕の立場は」

「……」


 あけすけな言葉にシャナが言葉を返さずにいうと、セザールはくっと笑って失礼、とつぶやいた。


「政務官がなければ、僕の生きる意味など、それぐらいなものなんです」


 すっと、今まで見せたことのない、冷たい声と疲れ切った表情に、シャナは目を見開いた。


「弟がいるから、兄の手前、あまり考えないようにしていたことでした。……そして、彼女らも、結局僕をそういう風にしか見ていない」


 先ほどの男爵令嬢に見せていたような言葉の冷たさと、静けさに、シャナは、よどんだエメラルドの目を真っすぐと見た。

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