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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:シャナ・ユベールの奇妙な文通相手
102/146

7、

 そして、慌てて駆けつけてきた軍部の兵士たちに、男爵邸を引き継いだシャナとセザールは、用意してあった馬に乗り込んでいた。


「誰が?」

「おそらく兄です」


 相乗り用の鞍に乗り込んでセザールがちらりと陣頭指揮を執っている将軍を見やって片手を上げる。見慣れた金髪。バートラムだ。


「……え? でも、バートラム様は?」


 ふと、今まで疑問ではなかったそのことに気付いたシャナが顔を上げると、セザールは笑って馬をかけさせた。


「ひゃっ」


 いきなりぐんと加速した馬に、慌ててシャナはセザールに抱き着いていた。


「ちゃんと口閉じててくださいね」


 なだらかな丘の道を駆け下りて、町へ戻ったセザールは、町の入り口、門のところで馬を軍部に返して、シャナを下した。


「すねないで下さいよ。すいませんって」


 涙目でぷるぷると震えているシャナに、セザールは顔を緩めながらも、乱れた髪を撫ぜて顔を覗き込む。


「ほんと、可愛いですねえ。あなたは」


 思わず漏れたという風な、柔らかな声に、え、とシャナが恐怖も忘れてセザールを見上げると、セザールは柔らかい表情をして、さ、行きましょうか、とはぐらかすようにシャナの手をそっと取って引いた。

 そして、それ以後は大した会話もなく、あっという間にオーランドが待つカレンの医院に着いた。


「あ……」

「大丈夫ですよ」


 先触れが行っていたのか、医院の玄関の前には、オーランドが白衣姿で煙草をふかして立っていた。


「行きますよ」


 気まずくて立ち止まりかけたシャナをそっとセザールが引いていく。


「シャナ?」


 そして、待つオーランドの前まで手を引かれたシャナは顔を伏せてオーランドの言葉を待った。


「ご、ごめんなさい……」


 まず、それを言うべきだと口にすると、オーランドは深くため息をついた。うつむいて小さく震えるシャナを見下ろして、ふっと鋭い目元を下げた。

 そして、何も言わずにシャナの頭に手を伸ばして、ぐっと引き寄せた。


「けがはないな?」


 胸に抱きこまれる形になって肩をこわばらせたシャナは、その言葉を聞いてゆるゆると体の力を抜いて、オーランドの腕の中でこくんとうなずいた。


「それならいい。よく戻ってきた」


 責めることのないオーランドに思わず顔を上げると、オーランドはそっと体を話してシャナを真っすぐと見た。


「俺が何を言いたいのか、お前はもうわかってるだろう? だから、何も言わねえよ。気をつけろよ。シャナ」


 最後に仕上げ、と言わんばかりにぽんぽん、と頭を撫でて煙草をくわえたまま医院の中に入っていく。


「たばこ捨てれ! この不良医者!」


 すかさずカレンの怒声が響く。

 そんな日常の風景に、シャナは、へたりと腰を抜かしていた。


「オーランド」

「なんだ?」


 煙草を外の灰皿に捨てに、医院から蹴りだされたオーランドにセザールが、シャナを借りる旨を言った。


「ああ。だが、きちんと夜までに返してくれよ?」

「ええ。それはもちろん。数時間ですよ」


 笑ったセザールは、座り込んだままのシャナをひょい、と体躯には見合わずに抱き上げて、軽く地面を蹴ったかと思うと、ふわりと空へ飛びあがった。


「ひえっ」


 浮遊感にセザールにしがみつくと、セザールは人通りの少ない裏通りで降りて、腰が立ったシャナの手を引いて、表通りへ出ていく。


「どこに?」

「お疲れな貴女にちょっとばかし、元気を出してもらおうかと」


 ふっと笑っていうセザールにシャナは、別に疲れてないけどと首を傾げるのだった。

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