7.
なんだか最近、間隔が短くなってきているのではなかろうか。
「黒騎士さま、黒騎士さま」と泣き叫ばれてガチャガチャ揺さぶられながら、ちょっと止めてと手を伸ばすとピタっと動きが止まった。
涙と鼻水でとても残念な顔になった女の子が「黒騎士さま?」と腰のあたりにすがりつきながら見上げている。
はい、落ち着いて。なにかなー?
十歳くらいと思われる女の子ははっと我に返るとぐいぐい手を引いて歩き始めた。
「黒騎士さま、こっち!早く早く!」
女の子の誘導のままに引っ張って行かれたのは臨終の場だった。
「神官長さま、神官長さま! 黒騎士さまよ!」
簡素な寝台を取り囲んでいた神官たちがはっとした様子でふり返り、さっと身を引いた。
促されるままに枕元に立てば、息をしているかどうかもわからない老人がひっそりと横たわっている。
若い頃はさぞかし、と思わせる端正な面立ちだ。
「神官長さま、黒騎士さまをお連れしました!」
必死な様子で女の子が声をかければ、まぶたがぴくりと動いてゆっくりと上っていった。
灰青色の瞳が黒い甲冑を映したかと思うとわずかに見開かれ、そして幸せそうに皺のよった口元に微笑みが浮かんで、再びまぶたが閉じられた。
ふっと何かが通り過ぎた気配があった。
白い影がぽうっと神官長の体から浮かんできた丸い光を包み込んだ。
その直後、影がすっとこちらに意識を向けたのが、何故か分かった。
ぶわっと全身に鳥肌が立った――気がした。
ホラーだ、ホラーだ、ホラーだよ!
映画ならホラーも見るが、実体験は御免である!
泣き崩れる神官たちと白い影にガシャンと背を向けて相手を刺激しないようゆっくり歩き出す。
なにあれ怖いっ!
ほんの少しだけ、甲冑に追いかけられて失神した人々の気持ちがわかった気がする。共感って大事だ!
ふっと何かの気配が隣に立った。
怖くて静止した。動けない。
〝黒騎士様、ありがとうございました〟
やわらかな声が脳内―ないけど―に響き、すっと消えた。
ブラックアウト。
ゆっくり明るさが増し、人々がざわざわと立ち上がる。
ホラー映画鑑賞中だった。
あまりのつまらなさに寝落ちしていたらしい。
ふーっと息を吐く。
「やっぱ、本物のほうが怖いわ」
つぶやいたら、通りがかった人がびくりと肩を震わせた。ごめんよ。
記憶が薄れるまで、しばらく立ち上がる気力がなかった。