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5.

 今回は迅速にいつもの甲冑、いつもの神殿であることが把握できた。


 何せ日本語で壁に張り紙がしてあったのだ、「黒騎士、台座に置いたメモ帳を読め」と。


 さすが白騎士、やることが違う。


 今回は周囲に人気がなく、とても静かだった。


 夜なのか、ランプらしきものが設置されていて、炎ではなく、石が光っていた。とってもファンタジーである。


 動く甲冑もファンタジーといえばファンタジーなんだけども、どちらかといえば特撮かホラーっぽい。


 よいしょとばかりにガッシャンガッシャン台座に腰掛け、メモ帳とやらを開く。


 あの王都包囲戦の顛末からその後の流れが下手くそな字で書かれていた。もちろん日本語。


 あの後、敵は撤退、謎の奇病が敵国上層部で流行し、停戦したこと。その十二年後に黒騎士=甲冑が攫われ、約一月後に戻ってきたこと。調べによると、件の敵国王宮内部で黒い甲冑が疾走する怪異が起き、次の国王とされる人物が精神に異常をきたしたことから、黒騎士による制裁を受けたと考えられていることなどなど。


 妙齢の女性はあの時、甲冑を着けていた王女だったらしい。そして今はそれから百年近く経っているようだ。


 それが分かったのは、白騎士がメモした最後に日本での日付を入れ、この国の王国暦を書き込み、その後、再び白騎士が出現するまでの間、一月毎に線を一本、一年経てば丸印を神官長が入れるように手配を整えていたからだ。


 日本の日付を見る限り、同時代の人間であることは間違いなさそうだ。そして、以前、聞いたように白騎士の方が格段にここに来る頻度が高い。


 それにしても、滞在回数が多いからということもあるだろうが、白騎士のコミュニケーション能力は優れているようだ。


 とりあえず、インクをつけるタイプのペンとインク壺があったので、読んだよ、と書き入れることにした。台座に腰掛け、膝にメモ帳を広げる。


 うん、字が下手と思ってごめん、白騎士。これ、書くの難しいわ。むしろ、上手ですね、字。


 質のよくない紙と油断すればインクが垂れるペンに心が折れそうになりながらも、誘拐事件の状況を詳細に書いておいた。


 なぜなら、また呪ったのか、と疑惑を持たれていたからだ。


 呪ってはいない。追いかけはしたけど。


 先方のメンタルが弱かったというか、もともとやばかったせいだ、うん。


 なんとか書き終えて、交換日記のようだ、と思って気づく。


 日本で会うこともできるんだろうか?


 向こうでは覚えていないから、無理かもしれないけど、聞いてみたいことはたくさんある。


 ちょっと迷ってから若干の個人情報を書き込んでおく。


 ちょうどペンを置いたとき、カタリと音がした。


 音のした方を見ると、扉のない出入り口に五歳くらいの幼い子供が目を丸くして立っていた。


 泣かれるかっ?!


 構えたが、子供は目を輝かせて走り寄って来た。


「黒騎士さまだー!」


 ガチンと両手で受け止める。


 激突したら、痛いぞ、お子様。


 お子様は勢いよく、一方的にお悩み相談を開始した。


 いずれ神官長にならなくてはいけないのに神官服が一人では着られないこと、古代文字を勉強しているがなかなか覚えられないこと、おねしょがなおらないこと、などなど。


 祀られている甲冑に向かって、できるようになりますようになどといつもお願いしていたらしい。


 そうかそうか。わたしに話してもなんら一切解決しないぞ!


 そんなことを考えつつ、ぽんぽんと頭に手を置こうとしてやめた。


 固いし、力加減が微妙だし、泣かれたらお手上げだ。しょうがないので、人差し指で軽く頭をつつくにとどめた。


 成長すれば全て解決することばかりだから問題ない! 将来の出世まで決まっている、君の人生は薔薇色だ!


 わたしの明日はわからないがな!


 雇用先の会社の経営状態が芳しくない話を聞いたことを思い出してしまったら、はっと目が覚めた。


 おう、なんと寝覚めの悪い。


 のそのそと起き上がって時計を見たら、信じられぬ時間を示していた。


 その日、起床から出勤までの所要時間最短記録を更新した。


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