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3.

 気がつけば戦場だった。


 襲ってくる甲冑―中身あり―をとっさに何故か手にしていた剣で薙ぎはらったら、「きゃっ」と声がした……中から。


 どうやらわたしは誰かに着られているらしい。


「黒騎士さま?」


 高い声に、あれ、女の子?と驚いた。


「あの、申し訳ありません! わたくし、第一王女のミシュレナと申します。この度は」


 口上を聞いている暇はなかった。次々と襲い掛かってくる甲冑及び軽鎧の群れを蹴散らすのに忙しく、いつしか王女と名乗った女の子は黙りこんでしまった。


 気を失ったらしい。


 そうだよね、普通、この狂戦士な状態には耐えられまい。


 我ながらとってもスプラッタな惨状を生み出している。


 この甲冑、自動迎撃装置でも付いているのか、向かってくるやつらを次から次へと倒していくのだ。


 中に入っているだけでも、体が振り回されるわけで、そりゃもういい運動になる。筋肉痛で済めばいいけど。大丈夫かね、この子、精神的にも。


 甲冑効果か、わたしは冷静でいられるけれど、先ほどから殺戮しまくっているのだ。過剰正当防衛の結果ではあるのだけれども。


 ほんと、よく錯乱しないな、わたし。


「レナ、無事か!」


 少年らしい声に目を向けると、色違いの鎧、通称、白騎士がいた。


 あちらも自動迎撃装置が作動中なのか、やって来る敵を次々とぶっ飛ばしている。


 白騎士が動いているのを初めて見た。しかも血塗れ。


 これは、紅白騎士だな!


〝いいな、お前は黒くて目立たないから!〟


〝言葉が通じてる?!〟


 一瞬互いに動きが止まったが、すぐさま迎撃装置が再稼動した。


〝いや、なに、あんた、日本人?〟


〝今、甲冑だけど日本人。初めまして、白騎士様?ぷぷっ〟


〝るっせぇ、そっちだって黒騎士様だろーがっ!〟


〝まあねぇ。多分、わたし、寝てる時だけここに入ってるみたいなんだけど、そっちもそうなの?〟


〝その口調、まさか本当に女かよ……〟


〝今は性別不詳の甲冑だけどな!〟


〝そりゃ俺だってそうなんだが。それはそうと、俺も寝てる時にここに来ているみたいだな。起きたらほとんど忘れるけど〟


〝そうだね。他の夢と同じで起きた直後は結構鮮明に覚えているけど、すぐ忘れる〟


〝頻度は俺の方がかなり高いな。やってることはあんたの方が派手だが〟


〝そう?〟


〝不能の呪いかけただろうが。あの後、しばらくはやたらめったら男からの供え物が多かった〟


〝え?呪いなんてかけた覚えないけど〟


〝美人神官長を襲った野郎がいただろ。あんたが多分、最初にこっちに来た時〟


〝いたね〟


〝あいつ、あんたに蹴り飛ばされた後、不能になったらしいぞ〟


〝打ち所が悪かった?〟


〝蹴り潰したのかっ?!〟


〝やだ、そんな気色悪い。あ、「もげろ」とは念じた〟


〝それかよ〟


 そんな調子で白騎士の話を聞けば、彼はこの世界においてほぼ定期的に、建国後30年あたりから長短の差は多少あれども20年おきくらいで出現しているらしい。


 この甲冑は建国の英雄二人が着用していたもので、初代国王が王位に就くの見届けて姿を消したことから神の御使いだと言われているという。


〝英雄が邪魔になって初代国王が殺したんじゃないの?〟


〝おい……俺もそう思ったけどな〟


 ちなみに今は鎧がつくられてから三百年ほど経っているようだ。そしてわたしが、出現したのは三回目。白騎士とは随分頻度が違う。


 ちなみに二回目に傷心の神官長を優しく慰めたことから、そして、一回目の容赦ない呪いから、黒騎士は女性ではないかと噂が流れたそうな。


 二回目の黒騎士出現以降、磨き係は女性になったということで、白騎士に感謝された。目覚めたら野郎が直近にいた、とゆーことがあの前にもあったそうだ。その時は驚きのあまり動けなかったそうだが。


 そうこうしているうちに、動くものは、というより襲ってくるものはいなくなった。


「王子!姫!」


 そう呼びかけて駆け寄ってくる男たちへ迎撃機能は発動しなかった。


〝……気絶してるよな〟


〝うん、筋肉痛は大丈夫かな?〟


 中にいる、年若い二人を気遣う。なんでもこの国の双子の王子と王女だそうで、最近、勢力を増している海の向こうの大国に急襲され、父王と兄王子が戦死、王都を包囲されて齢十四歳の二人が神罰覚悟で甲冑をまとい、戦場に立ったそうだ。


 白騎士は悲壮な顔で双子が甲冑に祈りを捧げて、着装しようとしたところから、こちらにいたらしい。


〝子供たちに重くないのかね、これ?〟


〝金属にしては恐ろしく軽い素材らしいぞ。神の御使いと言われるのもその辺りかららしい〟


〝よく知ってるね〟


〝美人神官長が察しがよかったんで、なんとか知りたがっていることを伝えて記録を読んでもらえた〟


 男たちは動きのない甲冑の姿に何かを察したようで、さっと膝をついた。


「ありがとうございます、白騎士殿、黒騎士殿」


〝や、これってどう反応すれば?〟


〝あんたの方が得意だろ、こういうの〟


 そんなこと言われてもねぇ。


 まずはこの子たちを休ませてあげたいんだけどな。


 それでもって、戦を仕掛けてきた連中はとりあえず滅びろ!


 そしてこの子達に甲冑なしの平穏な日々を……


「静かに〜」


「まだ寝るかっ!」


 それはそれは恐ろしい顔をした姉が見下ろしていた。


「いつまで寝てんのよ。大掃除始めるわよ」


 帰省するのは正月過ぎにすれば良かったと思う社会人2年目の大晦日だった。


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