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1.

 古い教会を思わせる石造りの壁に床は見覚えのないものだった。


 ともあれ、目の前で綺麗な女の人が下卑た男に押し倒されていたら、何やってやがるんだととりあえず止めに入るのは自然の流れだろう。


 しかし、続く動作はとても不自然で、勝手に体が動いて、男を蹴飛ばしていた。


 なんてバイオレンス。


 ガシャンって音はしたけれど、蹴った感覚もなく、それでも男は軽くふっ飛ばされて壁にたたきつけられていた。


 男の体とともに壁掛けがずるりと落ちる。


 夢だ、とすぐに思った。現実感皆無だったし。


 それにしてもなんて夢を見るんだ、わたし。欲求不満なのか?


 なんて一人脳内で突っ込んでいたら、美女が起き上がって慌てて灰色の衣の胸元をかきあわせたかと思うとひざまづいた。


「ありがとうございます、黒騎士様!」


 はい?


 声は出なかった。


 首を傾げたらまたガシャっと音がした。


 ふと下を見れば甲冑だった。


 ヨーロッパの城にでも飾ってありそうな、ただし、よくある銀色ではなく黒色。


 うわぁと思って手を動かすと、ガチャガチャ音がして見えるのは指先までの金属の連なり。


 じっと目を凝らしても隙間に見える肉体はない。


 手を動かして顔に触っても、カチンと音がするだけで感触もなにもない。


 おかしい。


 そもそもフルフェイスの兜を被っているのであればこんなに視界が広いはずがない。


 首を動かして辺りを見回せば、後ろの方にもう一体甲冑があった。こちらは白銀。


 おそらく、隣に自分は立っていたのだろう、空の台座がある。


 思わず近づいたのは、ピカピカに磨かれたそこに自分の姿が映っていたからだ。


 甲冑だった。白銀のと色違いの甲冑。まごうことなく全身甲冑。


 可動式のようだったので、面甲をそっと上げてみると中には何もなかった。


 うわぁと声を出したつもりだったが、声は出ない。


 耳はなくとも音は聞こえるのに理不尽だな!


「白騎士様は十年ほど前に目覚められたと先代より聞いております」


 奇妙な動きを見守っていたのか、女性の声がそう説明したので振り返ると、まだひざまづいたまま、顔も伏せたままだった。


 そうか、こっちは白騎士か……。


 思わず同病相哀れむ気持ちになってしまった。


 どっちがマシかなんて比べる気持ちも起こらない。


 というか、なんなのこの夢。


 うーんと悩みつつも、金属製の指を使って自分の肩にかけられていたマントを外してみる。ブローチのような飾留めで装着されていたのだが、金属指はつるつる滑って大変外しにくかった。


 それを手に女性にガシャンガシャンと音を立てながら近づいてそっと肩にかける。


 乱れた服を隠すものがなければ人も呼べないもんね。


「お気遣いいたみいります。わたくしはミュゼライ。この神殿を預かる三代目神官長でございます」


 なんと、神官さんですか。聖職者ですね。そして、その聖職者に手を出しやがった不埒者は……。


 ガシャンと音を立てて壁を見やると、神官長が説明を加えた。


「あれは、この国の第三王子です」


 なんと王子様。あんな下衆が王子様!


「現在、第一王子が病に臥せったことで、第二王子と王位継承を争っております。神殿勢力を配下におこうとこのような暴挙に及んだのでしょう」


 察しのよい神官長さんの言葉に目―ないけど―を見開く。


 最低だなっ!もげろっ!


 伸びている男に向かって声にならぬ罵声を浴びせたところで、視界が暗転した。


 ――朝だった。


 変な夢を見たな。


 もぞもぞと身動きすれば、毛布の感触がある。


 甲冑じゃなくってよかった。


 心底ほっとして、つい二度寝してしまい、楽しみにしていた生物進化学の特別講義に遅刻したのは大変遺憾であった。


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