5話 ルークの事情
「ははは!け、建築士か面白い名で呼ばれてるんだね」
「師匠そこまで笑わなくても……
まあでも俺は別に気にしてないけどねー」
今、居間にあるテーブルに座りながら、街でなんと呼ばれてるかの話しになり、ギルドの酒場で酔っ払いどもに建築士と呼ばれてる事を話したのだ。
「カエデはまだいいさ、俺なんて《泥まみれのルーク》だぜ?
子供みたいで嫌だ!」
「まあ、間違いでもないけどさ、ギルドで、川の堤防増設の依頼受けた時、堤防はルークの魔法で大幅に作業を進めたけど、何故か、《マッドワーム》が現れて、2人そろって泥だらけになったし、ついでに監視塔の建造を手伝って1日で依頼完了したんだからさ。」
マッドワームは水辺に現れる魔物といわれている、基本無害だが、住処を荒らされると泥玉を口から打ってくる、威力はないが凄く泥臭い。
ルークは途中から集中して狙われたためブチキレて魔法を撃ちまくっていた。
「ぷっ!?
ルーク、私を笑い死にさせる気ですか?だいたい想像はつきますよ、ルークが張り切って、土魔法を全力で一人で使ったのだろ?マッドワームは見た目から魔物と言われるが泥を操る妖精だよ。」
妖精は精霊の幼体とされていて、その属性にあった場所に溶け込んで姿を見せないはずだけど。
ちなみに精霊に成長すると各属性ごとに一カ所に集まるそこは、
精霊が住まう場所は《アルフヘイム》と呼ばれている。
「なんで笑うだよ師匠!妖精だか知らないけど先に仕掛けたのは奴らだぜ!それに早く作業を早く終わらせるために、魔法を使って何が悪いんだよ!」
「ルークの言うとおり、俺はマッドワームのこと調べたけど、解らなかった。住処から近いけど、縄張りから離れた場所で、何故襲われたんですか?次々と現れて大変だったんですよ……ルークが」
最初はその場にいた全員に攻撃してきたけど、ルークが魔法を使えば使うほどルーク、1人に集まって来ていた。
その場は悪いけど任せて作業を続けた、朝から始まり、夕暮れに予定より2日早く作業は終わった、ルークのほうを見ればマッドワームの姿はなく、変わりにルークが全身泥で覆われた姿で倒れていた。
「ルーク、君は気づいてないようだけど、張り切ったり感情が高ぶると、周りに魔力を放ってしまう癖があるようだね、これは精霊魔法を使える証拠でも有ります。」
「「精霊魔法?」」
一般的な魔法については学んでいたが初めて聞いた。
「精霊魔法とは精霊と契約なしに力を借りて使う魔法で殲滅魔法とも呼ばれる、使い手が非常に少ない魔法だね。そ……ぷふ!そして使い手と属性が同じだと攻撃は無力化され……くくく!それどころか精霊のご馳走、大好物な……なんだよ。くっくはははは!もうだめ笑いが止まらない!」
「えっ……てことは最初の魔法で呼び寄せられた妖精達は攻撃すれば美味しいご飯をくれるルークを狙い、お腹一杯になったから帰ったのか。」
あれ?俺、ルークのとばっちり受けてない?
「ああああああ!!なんだよそれ!!」
ルークはテーブルに突っ伏して、凄い落ち込みようだ、まあ全滅させたと思ったら、逆に喜ばせていたんだから仕方ない。
「で、カエデの呼び名は精巧な魔法陣を描き錬金術師とクラフターの作業を早め、監視塔を建造するのに大きく貢献したからだね、その後土木ギルドに引っ張りだこでかなり儲かったのだろ?」
「最終的には魔法陣の書き方を売ったからそれなりに」
錬金術師は、強度の向上、成分の分離など材質を変化させる職業だ。
クラフターは素材の形状を変化させることが出来るが、精巧な物は魔力の消費が激しいため、簡単な量産品を造るのが主だ。
2つの職業に共通する点、それは魔法陣を必ず使用するところで構成は単純で種類が多い。
俺が使った魔法陣は、オリジナルでは無く、既存の魔法陣の無駄を取り除いた改良品だ、効率を2倍にしたが見れば真似されやすいため直ぐに売った。要するに懐があったかい、ほくほく顔の俺を厄っかんで建築士と呼んでいたわけだ。
「おや?もう夕暮れか、夕食を作るからカエデ、手伝いお願いします、ルークは……待っていていいですよ。ミレーヌ達は食事の準備が出来たら呼びにいくとします」
師匠は苦笑して言う少し笑いすぎたと思ってるようだ。
「料理は盛大に肉料理にするかな」
師匠のその言葉に落ち込んで伏せていた耳がピンと立ち尻尾を少し振っている。
師匠と苦笑しあい料理を始めることにした。
ーブルーナ(師匠) ー
(ここを出て半年、2人共成長しましたね……)
2人の師であるブルーナは2人の話しを聞きそう思う。
2人は師の教えを守り、体を鍛え、ギルドで受ける者がいないクエストを、進んで受けてより多く経験を積もうとしてる事を聞き内心喜んでいた。
(しかし、やはりルークは、“精霊魔法士”の才がありましたか、しかも土の精霊に溺愛される程に……彼が火狐の獣人では、なければ何も問題なかったのですが……)
火狐族で、土の精霊魔法士は、以前にもいた、名は〈ストリュ〉かつてあった獣人の王国の一つを魔族に加担し滅びへと導いた、獣人にとっては憎むべき敵だ。
好んで禁術の猛毒魔法を使って相手の苦しむ姿に快楽を得ていた。
そのため火狐族は、火の魔法に特化した種族、火魔法のみしか使えないはずが”土魔法を使えた”ルークを知る、同じ村に住む者以外の近隣の村人は、そのことが分かると、恐れた、また“同じ惨劇“が起きるのではないかっと、ルークが成長して14歳になったころになると事態は酷くなる。
近くの森の中に入り、ルークが薬草を採集してた時、布で顔を隠した獣人に襲われたが、瀕死の状態を運良く発見され一命は取り留めた、しかし襲ったのは近隣の村の誰かまでは分かったが追及することができない、そんな事をすれば村は孤立してしまうからだ。
もう隠せないと思ったルークの両親は全てをルークに教えて一緒に国を出て、人が納める国で暮らそうと言ったが……
『俺はストリュじゃない!そんな奴俺が騎士になって倒してやる!そうすれば好きな村を出なくてすむ!』
ルークは騎士になり魔族となってまだ生きてるといわれるストリュを倒す、忌み嫌うその考え方を変えたいと言った。家族や村の者に何度も説得されたが頑なに拒否して、一人で体を鍛え始めてしまった。
(ルークは普通なら怖くて仕方なく国を出るはずのとこを、恐怖の元凶を倒す事を選び私のとこまで教えを請いにきた。)
両親と村の村長は、もう説得しても無駄だと諦めたがこのままでは、ルークは、騎士団に入るため村を出てしまう、我流で鍛えて生き残れる程、魔族との戦いは甘くないのをかつてブルーナと旅をしていた村長は、身を持って体験して痛い程分かっていたため、生きて戻って来られるようにブルーナに預けることにした。
『修行させて出来れば諦めさせて欲しい』と、書いた手紙と金貨5枚、(50万円ほど)をルークは頭を下げて渡してきた。
加護の領域で1ヶ月、銀貨2枚(2万円ほど)あれば裕福に暮らせる事から、村の蓄えと村人の資産から出し合ったことが分かる、それだけ村の人々に愛されているのだろう。
(ルークは獣人の国で騎士になる事を望んでいますが、土魔法を使えるだけならまだしも……いくら隠そうとしても”精霊魔法士は精霊を扱える者を見抜く解ってしまう“)
精霊魔法士の周りには常に相性の良い精霊や妖精が着いている、精霊魔法の扱いに慣れた者は、普段隠れて見えない妖精や精霊を視ることができるようになる。人数が少ない精霊魔法士だが国には必ず1人はいる。
「さて……どうしたものか……」
「師匠、スープが沸騰してる!」
「ああいけませんね、スープの風味が消えてしまう」
考え事をしていて気付くのが遅れてしまったようだ。
「どうしたんだカエデ?まさか……肉を焦がしたのか?!」
「違うって、師匠が珍しくスープを沸騰させて失敗したんだ」
「へ~師匠が失敗するなんて珍しいな」
カエデの慌てた声に、ルークが様子を見に来た。
(まったく考え事をしながら料理をするとは……いつの間にか私はルークを自分の子供のように思ってたということですね……)
ルークは大雑把だが明るくたまに失敗しては凄く慌て、そして不安になった時、声をかけてくれる
そんな自分の子供がいたらとルークを視ているとふと思う事があった。
「いえ……少し考え事をしてしまってね」
「考え事?何悩んでるんだ?悩み事は話した方が楽になるって母さんが良く言ってたぞ、師匠」
ルークがそんなことを言って真っ直ぐに観てくるのをジッと目を細めて見る、もう一度確かめてみる事にした。
「……明日の2人の実力を確かめるのはどのようにしてやろうか、考えてたんです。最後ですからここは私が全力で相手をしようかと思ってね」
「なななな?!何でそんな……」
「し……しし師匠?!俺なんか怒られるような事したのか??謝るからそれだけは……それだけは勘弁してください!!」
(やはりですか……ルークから溢れだす魔力が突如消えていく、普通は薄く拡散するのですが……)
ルークが最初動揺した時感じた事を再度確かめて確信する、それも1匹ではなく10匹は妖精がいる魔力の消え方だ。
(そうなると……やはり聖女が指揮する《ワルキューレ騎士団》に入隊させるのが一番ですか、ルークを説得しなければ……いや彼なら大丈夫ですね)
「師匠、実は美味しいワインを持って来たんです、どうぞお納めください」
カエデが、異次元の指輪から取り出すワインを見てブルーナは考えるのをやめる。
「おおお!これは、なかなか手に入らない、火山ぶどうのワインじゃないか!ありがとうカエデ、
これは明日、多少”色を付けます“かね」
「ありがとうございます、持って来たかいがあります!」
「さて料理も終えたので、ミレーヌを呼ん来ます。ルーク、カエデ
は料理を運んで置いてください」
ブルーナは機嫌良くミレーヌを呼びに調理場をあとにする。
「……なあカエデ、色を付けるって優しくするのか、厳しくするのかどっちだろうな?」
「そりゃ、優しいく……する方……だよね?あれ?あれーー?!」
師匠がどちらの意味で言ったわからない、再度聞いて機嫌を損ねたらどうしよもない。
「俺も1回やらかしたし、これでおあいこだな」
「ルーク……こうなったら、当たって砕けろ、玉砕覚悟、死ならば諸共、だ!!師匠を倒すつもりでやるぞ!!」
ルークの言葉に俺は決心する。
「?カエデが最初何言ってるかわかんねーけど……そうだ!俺達は強くなったんだ、勝てなくても師匠を焦らすくらいはしてやろうぜ!!」
2人は拳を軽くぶつけあう。
「ルーク……拳が震えるぞ?」
「カエデ、やな汗出てるぞ?」
決心しても怖いものは怖い、師匠が以前大切にしてたグラスを過って壊した時、笑顔をして、特別メニューの特訓させられ、軽く精神が壊れそうになる事があった。ミレーヌさんの精神治癒の魔法で治っても記憶は消えない。
「そうだ早く料理を運ばないと師匠に何を言われるか……」
「そうだな、これ以上何か言われて振り回されるのはごめんだ」
ルークと料理をそそくさ運び来るのを待つことにした。