第四羽:勇者
魔王と天使は人間を駒に戦争をしていた。
魔王は天使を憎んでいたし、天使は魔王を憎んでいた。どちらか一方が滅ばない限り戦争は終わらないのだが両者の力が拮抗しているために戦争はなかなか終わらなかった。もっとも人間自体も戦うことが好きで年がら年中、どこかで別の、人間同士の争いをしていたから魔王やら天使やらがいなくても戦争はなくならなかっただろうと思う。
過去に数度、世界の原型が大きく崩れるような戦争があった。そこでそれまであったもの、都市も人も資料も何もかもが等しく綺麗に燃えてしまうものだから魔王と天使の戦争がどの程度続けられていたのか、誰も正確に把握していない。千年? 二千年? とりあえず長い年月だ。気の遠くなるほどの。
天地創造の神話というものがある。天使が人間を含む動物を作り、魔王がそれ以外のものを作った、というそんな類の神話。この神話が正しいかどうかはわからないが、人間は造物主である天使の味方をした。魔王にはごくわずかの人間の信奉者を除けば配下はみんな自律機械『魔臣』である。
『勇者』は天使から採取された天使細胞を肉体に移植し、半天使化した人間達である。天使細胞は空気元素を活動エネルギーに変換する性質を持っているから、『勇者』達は皮膚呼吸だけで生きていくことが出来たし、しかも肉体は最適化さるので勇者は常人をはるかに超えた身体能力を発揮することもできた。天使細胞から作り出される天使力は魔王に対抗できる唯一の武器である。勇者の中でも一部の上位ヒエラルキーには天使力をブーストさせる天使兵装が与えられた。天使兵装を運用する序列上位勇者が対魔王軍の切り札となった。
魔王軍の主力は自律機械『魔臣』達である。一体一体の戦闘能力は勇者に劣るが彼らは機械なので工場で大量生産することが出来る。それが魔王軍の利点だ。
質の『勇者』、量の『魔臣』。
しかし近年、魔王軍の『魔臣』の能力が大幅に向上してきたせいで勇者が苦戦するようになった。 勇者は『魔臣』のように工場で大量生産できない。天使細胞に適応できるのは一握りの人間だけだ。もし仮に資格のない人間に天使細胞を移植した場合、天使細胞はまるで癌細胞のように無尽蔵に増殖してその人の体内の恒常性を破壊し、死に至らしめる。天使サイドは一握りの才能にあまりに依存しすぎたのだ。
もし仮に『魔臣』がタカラトミーとかの大手玩具メーカーが所有する工場で作られるおもちゃだとすれば、『勇者』は一つ一つ手作りで作られる伝統的手工業のおもちゃである。どちらの方が多くのシェアを獲得するか? 答えは明白である。
戦況は日に日に悪くなっていった。
もちろん、天使サイドも手をこまねいてみているだけではなかった。
勇者を効率よく統括、管理、育成する勇者機関が設立された。今まで勇者は勇者家系と呼ばれる一部の貴族しかなれなかった。天使が一番最初に手ずから選んだ7勇者を『絶対勇者』という。英雄家系はその『絶対勇者』達の子孫である。しかし実力よりも家系や血筋を重んじる勇者選別システムは半ば形骸化していて、これが近年の勇者の質にかなりの影響を与えていた。勇者が天使細胞適応力と、そして確かな実力で選ばれるようになったのはつい最近のことなのだ。それまでは戦闘は家来に任せて、式典や重要な会議のみ参加する、前線を全く経験していない勇者が珍しくなかった。
それでも戦況が悪くなると勇者機関はついに禁じられた領域に足を踏み入れることを決定した。
ただの勇者では戦局を変えることが出来ない、ならば勇者を超えるものを生み出さなくてはならない。すなわち原初の勇者『絶対勇者』。
もし仮に『絶対勇者』を人の手で作り出すことが出来たらならば不利な戦局を一気に覆すことが出来るだろう。
難攻不落とうたわれた勇者砦も、不沈を目指して鳴物入りで建造された勇者戦艦もすで失われ、天使兵装の半数以上は敵の手に渡っていた。
手段を選んでいられるような人的余裕も時間的余裕も勇者機関にはなかった……。




