#4‥暖かい雨
とある男子生徒の会話
「なぁだーやま。」
「なんだたけぴー?」
「この中庭にある竜人池って児童公園の敷地くらい大きいけどなんでこんなにでかいんだろうな?」
「さあ?でも誰かから聞いた話だと、前あった泉を大きくしたとかなんとか言ってたような?」
「へ~」
「そういや、なんか最近雨多いなぁ~」
「天気予報だと湿度が高いっていってたな。」
「珍しい。お前なんかがニュース見るなんて。」
「うるせぇ!」
1月下旬だったが、その日は暖かかった。
雨が降り湿度が高くなったからであろう。
輝が最初に変身してからしばらくは何も無く平和だった。
「じゃ、あのカードメモリは怪物からでたお札みたいなカードの力をスキャンして出来るんだ。」
「うん」
「そして、倒された後憑依された人は邪心と一緒に何もなかった状態に戻る、とそんな感じ?」
「ま、簡単にいえばそういうこと。」
輝と俊の二人は教室でシセイカイザーのことについて話していた。
「っていうか1ヶ月以上もも経ってるのになんでそんなに知らないことだらけなの?」
俊はやたらとタイトルの長いラノベから目を離さずに話している。
「だって、最初に変身してから全く怪人は現れないし、そもそもみんなだって説明してくれるのおそかっったじゃん」
輝は椅子の背もたれを抱きかかえるような体勢で座っていた。
「まあ、あのときはいろいろ急ぎだったから説明とかもしてなかったしね。」
相変わらずラノベから目を離さずに感情のこもってない声を出していた。
「それより、ここで話すのはまずいよね。」
輝が周りを見回してみると、教室には沢山の人がいた。
いつもは寒いので教室から出ない人がほとんどなのだが、今日は湿気で廊下や床が滑りやすいから出るのをためらってるのだろう。ほとんどの人間が談笑していた。この中で話を聞かれたらへんに思われるか、事情を知ってる人間が食いついてきてしまう。実際、あの戦闘の後誰が撮影していたのか都内の各メディアに取り上げられ、2~3週間は話題になっていた。
正体は今のところばれていないのだがこんな所でボロを出してしまうと今後の活動がしにくくなってしまうだろう。
さっきの言葉を最後に俊はラノベにふけってしまった。
輝は話す相手がいなくなってしまった。
2時間目の休み時間もまだ残り5分以上ある。あまりに退屈なので、美穂に話しかけようと彼女の方を見た。
だが、美穂も俊同様にラノベにふけっていた。
残念そうな顔をしたら、ふとある人物と目があった。
忍である。
忍もまた退屈そうに雨が降っている外を眺めていた。
(こんなへんな感じ…嫌だな。)
中庭にある大きな池を眺めながらそんな事を考えていると、いきなり視界が遮られた。
「だーれだ!」
「うわぁぁ!え?え?…」
忍はびっくりして手をばたつかせた。
「ごめん!びっくりさせた?」
輝は手をほどいて忍の前に立った。
「広瀬…さん…」
人に話しかけられたため一気に緊張が身体を支配して、しゃべるという行為を奪った。
「忍君何みてたの?」
そういいながらまた俊と話していた時と同じ体勢で座った。
「えーうー…」
忍は答えに詰まった。実際何も見てなかったから。忍はただ考え事をしていただけだった。
「あ、あの竜神池か-」
忍がどう返答しようか迷っていたら、輝が視線の先を指さしていた。
「あの池ってすっごく大っきいよね-。たぶん都内で1番じゃないかなー。でもなんで竜人池なんだろう?」
「え…っと…なんでだろ…」
忍はやっと言葉を出せた。
「そういえばなんか今日暖かいよね。だけど最近寒かったからうれしいね!なんか変な感じだけど。」
そういった途端、忍の今までの態度が変わった。
「でも、僕はこの変な感じが嫌い。」
さっきまでの挙動不審な対応が嘘のように流暢な日本語がすらすらと彼の口から吐き出された。
「へー、何で?」
輝はなんの疑問も持たずに聞いてみた。
「こんな日には、いつも必ず変なことが起こる。」
「変な事?」
輝は首をかしげた。
「例えば…この前の転倒事件。」
「へ~」
輝は何故か笑顔だった。
「忍君っておもしろい」
「へっ?」
忍の顔が一気に赤くなった。
「だって…」
続きを言おうとしたら、授業開始のチャイムが鳴った。
「やばっ行かないと」
輝は忍の前から離れた。
忍は顔を赤くしたままだった。
「おらー、席に着け-」
そう言いながら、理科の先生が教室の扉を開けて入ってきた。
「全く、お前等はってうわぁぁぁ!」
教室に入ったその瞬間、先生は大きくスリップして転倒した。
「いてて…水びたしじゃないか。」
先生が足を滑らせたとこにはどう見ても人為的に作った水たまりができていた。
「誰だ?こんな事をしたのは?」
立ち上がり、教室内の生徒を睨んだ。
だが生徒は顔を見合わせるだけで誰も名乗りを上げるものはいなかった。
「本当に誰もやってないのか?」
再度の問いでも教室がざわめくだけで、「私がやりました」とも「すみません。さっき水をこぼしました。」とも「あいつがやってました」とも言わない。
「…まあいい。犯人捜しをしてもしょうがないしな。すまんが教室掃除の係、片付けておいてくれないか?」
そこで教室掃除の係の係6人のうち3人が出てきて水たまりを片付け、水たまりは湿気か雨漏りのせいということで一旦その場は収まり、5分遅れで授業がはじまった。
(おかしい…)
一連の流れを見てた美穂は眉をひそめた。
(さっきの時間、あそこには沢山の人が溜まってた…それに湿気だけで水たまりなんてできるの?)
同時に忍も似たような事を考えていた。
(まさか…他の教室でも同じ事になってないよね…)
「緒方。続きから読んでくれ」
「え?えっと…ぅぅ…えぇ…」
そんな事を考えていたら授業を聞き逃してしまった。
「ま~たお前はボーっとしてー。もういい。佐々木、代わりに読んでくれ。」
「はい。」
周りからはクスクス笑いが聞こえた。
忍の顔は真っ赤で、女の子らしい涙目になっていた。
(もぉ~なんでこんなことに…)
♂♀
時と場所が変わり2-1の教室
「今日パン持ってきたんだ。」
とある男子生徒がカバンの中を漁っていた。
「また懲りずに…だーやまがこの前牛島さんのパンツ見たせいで俺ら先生から日直1ヶ月の刑に処されただろ。」
「だーいじょうぶだって。こういうのは見つからなければいいの。」
そういって山田はカバンの中からパンを取り出した。
「なななななななぁんじゃこりゃあああ!」
カバンの中から取り出したそれは水に濡れてビショビショになっていて食べられるようなものでは無かった。
「おいおいお前ちゃんとしまっとけよ。」
武田が山田の持っていたパンをつまみ上げた。
(いくら湿気があるっていってもパンがビショビショになることってあるのか?)
武田は眉をひそめた。山田の持って来ていたパンは一度封を切っているものだった。少し湿気るならまだしもビショビショになってるなんていくら何でもあり得なかった。
「お前等。何をやってる。」
気づいたら二人の後ろには先生がいた。
「いや!違うんです!これは…」
「山田!武田!放課後職員室だ!」
「「そんなぁぁ!」」
放課後、またしても二人は日直1ヶ月の刑を執行されたのであった。
♂♀
「さーて、次は…」
理科の授業も終わり、また休み時間。
輝は次の授業の準備をするために机の中を漁った。
「国語…だったかな?」
机の中にしまっていた教科書を掴んだとき、なんかへんな感触がした。
「うん?」
指先にぬるぬると湿った感触が伝わってきた。
「うわぁ…」
教科書を取り出してみると、それはぐっしょりと濡れていた。
心配になり国語以外の教科書とノートを出してみる。
「なに…これ…」
全部同じようにびっしょりになっていた。
輝は唇を噛みしめ、悲しそうに笑った。
「もう…いいじゃん…」
輝の頭が痛んだ。思い出したくなかった。
だがフラッシュバックは容赦なく襲いかかる。
(うざいんだよ。お前)
(あ、ごめん…無理…)
(寄るな!臭いんだよ!)
(どうせ×××とかしないと苦しいんだろお前ん家!)
(媚び売り女が)
(野球は君みたいなミーハーがやるものじゃないんだ。)
(オタクとか無理無理無理)
(輝って調子のっててキモいよね)
(消えればいいのに…)
人とは違うという理由だけでいじめを受けていた過去。
それは彼女が野球オタクという理由だけではない。
今はおとなしくなってはいるが『形のないいじめ』は続いていた。
「…考えすぎ。」
そういって国語の教科書以外を教室のカバン棚の上に並べ始めた。
「今日は湿気があるけど、狭いとこに置いてるよりマシになるでしょ。」
1限の英語、2限の地理、3限の理科、5限の数学、の順番で教科書とノートを一冊ずつ並べていった。
「おい広瀬ぇ~、お前だけ場所を占領すんなよ~」
全ての教材を並べたら、後ろから太い声が聞こえた。
振り返ると、輝と同じくビショビショになった教材を抱えた鶴岡の姿があった。
「全く困ったもんだよなぁ~。いくら湿度が高いからってこの仕打ちはないだろ。」
どうやら教材が駄目になったのは輝だけではないらしい。
「げぇ!まじか!」
「私のも濡れてる~」
「うわー、どうすんだよこれ。」
クラスの何人かの生徒も同じように教材が濡らされてるらしい。
「やっぱり…」
忍は濡れた教科書を握りしめた。
「この前と一緒だ。」
忍はこっそりと教室を抜け出し、人気のない来客用の靴箱の前に行った。
「ここなら転身してる所は見られないでしょ。」
そういってポケットから転身用の封縛札を取り出した。
「解縛転身!」
封縛札を片目に貼り、姿を封縛巫女『希望』の姿に変えた。
「隔離世界」
希望が手を挙げると、世界は緑色に染まった。
「あれは絶対人間の仕業じゃない」
希望は廊下に出た。
「よし、この子達に手伝ってもらおう。」
希望は腰から2枚の札を取り出した。
「九尾、小雪」
札を投げると2体の妖怪が召喚された。
9つのしっぽを持った大きな化け狐「九尾」
高校生の姿をした雪女「小雪」
「よし、みんなで封魔を探そう。協力して。」
希望は召喚した2体に言った。
「承知」
「おっけー!」
上から九尾、小雪のセリフ。
「じゃあ、もし見つけたらすぐに私に知らせること。見つけても勝ってな実力行使は禁止。わかった?」
希望は腰を折って2体に説明した。ただでさえ女の子らしいのに巫女装束になることでさらに女性としての魅力が出た仕草だった。
「じゃあ、私は上を調べてみますね!」
小雪はセーラー服を翻して2階に繋がっている廊下を駆けていった。
「我は…」
「九尾は私と一緒にいて」
希望は九尾を制止した。
「察知してみる。」
希望は目を瞑った。
精神を集中させて気配を探る。
ぴちゃん…
ぴちゃん…
(聞こえた!)
「2階だ。九尾!行くよ!」
九尾と希望は廊下をダッシュで駆けていった。
「きゃぁ!」
階段を登り終えたところで、小雪がびしょ濡れになって転がっていたのが発見された。
「大丈夫!?」
希望は小雪に駆け寄った。
「あいつ…つよい…」
小雪は自が転がってきた方向を指差した。
指差した方を見ると、一体の竜がいた。
「水竜…」
白い鱗、蒼い瞳、神々しいオーラ…
水の神「水竜」
「ガアアアア!」
水竜が希望目掛けて襲いかかってきた。
「危ない!」
九尾が体当たりしてすんでのところで希望を守った。
「ガアアアアアア」
水竜は邪魔されたのに腹が立ったのか九尾に躍りかかった。
「はぁっ」
九尾は攻撃はせずに水竜の攻撃を受け止める。
「ふぅん!」
そして廊下の奥へ投げ飛ばした。
「これどうすれば…」
びしょ濡れになって少し色っぽくなった小雪が横にいる希望を見ると、希望は難しい顔をしていた。
(まずは動きを止めるところからだけど…)
「グウオォォォォ!」
「はあああああっ!」
水竜と九尾との攻防は相変わらず続いている。
「……。」
希望はそれを黙って見ていた。
ぴちょん
ぴちょん
するとあることに気づいた。
「濡れてる…」
水竜の行動範囲に水たまりが出来ていた。まるで理科の時間に教壇前に出来たもののように。
(使える!)
希望はにやっと笑った。
「小雪、この水を全部凍らせる事は出来る?」
希望は足下から九尾達のところまで伸びている水たまりを指差して言った。
「多分、出来ますけど。」
「よし、じゃあ水竜の動きを止める程度に固めて!」
「はい!」
小雪は水たまりに手を触れた。
するとそこから水竜目掛けて一気に凍り始めた。
「「!」」
九尾はそれに気づき空中に緊急回避した。
水竜も空中に逃げようとしたが、
「させん!」
九尾の象徴とも言える9つのしっぽを水竜に叩きつけて、廊下に落下させる。
「がはぁ!」
水竜の身体が床に叩き付けられたと同時に氷の波が届いて水竜の動きを封じた。
「やった!」
希望は小さくガッツポーズをとった。
「よかった…成功して。」
小雪はほっと胸をなで下ろした。
2人は水竜のところに駆け寄った。
「なんでこんなことをしたの?」
希望はしゃがんで水竜に問いかけた。
「ここから人間を消したかった…」
「え?」
そして水流は今までのことを話した。
「ここには元々大きな泉があった。私はその泉の守り神だった。この泉は誰にも見つけられることの無かった汚れ無き泉だった。だが30年前、この泉が発見されすぐに埋め立てられてしまった。そしてこの学校が建てられた…」
「つまり…ここから人間を消して、泉を復活させたい、とそういうことだな。」
横に座ってた九尾がふさふさのしっぽを揺らしながら言った。
「…でも、そんなの人に迷惑かけていい理由にならない。」
「でも!神聖な土地を汚されたのだぞ!」
水流は声を荒らげた。
そのまま希望に襲いかかろうとするが氷の拘束で動けない。
「大丈夫。神聖な土地は汚れたけど、残っている。」
希望はまっすぐ水流の目を見た。
「なに…」
水流は目を見開いた。
「この学校の中庭にある竜人池は、その泉の水なんだ。泉は消えたかもしれないけど、この学校を作った人間は泉の事を忘れてなんかいない。むしろ残そうと思ってあえて泉をつぶしてあの池を作ったんだ。」
「そう…なのか…」
水流は驚いた表情をしていた。
「でも、君はみんなを困らせた。封縛するよ。」
そう言って希望は腰から札を取り出した。
「いいだろう。泉が生きていたというだけで、私は満足だ…」
水流はそれ以上抵抗することはなく、おとなしく封縛された。
「封縛。」
泉の守り神『水流』
「でもなんで今頃現れたんでしょうね?」
小雪が水流の札を覗きながらいった。
「なんでだろ?」
希望も首をかしげた。
「おそらく気候条件でしょう」
九尾も札を覗きながら言った。
「1月の冷えた気温、雨、廊下が滑りやすくなるほどの湿度。たぶん今日が1番出やすいタイミングだったんでしょうね。」
「なるほど!」
後は3人で笑っていた。
♂♀
逆側の校舎の隔離世界
「はぁっ!」
もう一人の巫女、火憐がモーニングスター『鉄槌』を河童の甲羅目掛けて振り下ろす。
「きぇぇぇぇえ!」
甲羅は粉々に粉砕された。
「甘いのよ…。封縛!」
「いやだぁ!俺はまだぁ!…」
鉄槌の下敷きになっている妖魔、水のいたずらで人を困らせる妖魔『雨河童』を封縛した。
今回の事件に犯人はこの河童である。
希望こと忍が水竜を封縛したのは全くの偶然。水竜は小雪をここの生徒と勘違いして攻撃し、そのことについて希望に説教されたと思っていた。
「忍は甘い…何が『改心させてから封縛しないと意味が無い』よ…」
火憐は持ってる札をぎゅっと握りしめた。
その表情は怒りに燃えていた。
「封魔は…殺すものよ…」
続く
またやってしまった。リアルが急がし過ぎて書く暇を見つけることができません…。今回出てきた小雪というキャラクター、見覚えがある人がいるんじゃないでしょうか?去年の冬の童話祭に出した作品のキャラクターです。今年の方には間に合いませんでした。さて、この調子でいくと確実に最終回が書けずに放置してしまう…。でも頑張ります!感想、ダメ出し、よろしむお願いします。ユーザーではない方も是非!